こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

TAJOMARU

otello2009-07-17

TAJOMARU


ポイント ★★*
DATE 09/7/15
THEATER WARNER
監督 中野裕之
ナンバー 167
出演 小栗旬/柴本幸/田中圭/やべきょうすけ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


友情が欲望に蝕まれ、信頼が憎しみの虜になり、愛が苦悩に姿を変える。権力と財産を前に、陰謀と裏切りが複雑に交叉し、まっすぐに進もうとする者の思いは踏みにじられる。映画は高貴な家系に生まれた若者がたどる波乱万丈の人生を背景に、自由に生きるのは己の信念を貫き通すということであると訴える。緑深い幽玄の森の奥で繰り広げられる男女の会話が、深層心理をのぞき見るような緊迫感を醸し出し、先の読めない展開は乱世の人々の暮らしを象徴しているようだ。


管領家の長男・畠山信綱は弟・直光の許嫁・阿古姫との結婚を条件に管領職の相続を将軍に許される。信綱は無理やり阿古を奪うが、直光が阿古を連れ戻して逃亡、その陰では子供のころからの従者・桜丸が糸を引いていた。


直光と阿古の逃避行かと思わせて、直光の失望と盗賊としての再起、さらには復讐までを描いているのだが、そこにあるのは一貫して人間の深い業だ。管領職に目がくらんだ信綱、保身のために女の武器を使う阿古、そして直光の身分を乗っ取り管領職横取りを企む桜丸。元々桜丸は畠山家の芋を盗んだところを直光に救われたのだが、その時の家臣の「次は馬、やがては屋敷まで乗っ取られる」という言葉通りになってしまう。桜丸の行為には虐げられた貧しい下層階級の恨みが凝縮されていた。


多襄丸という盗賊に襲われ阿古を手籠にされた上に阿古に見はなされた直光が、阿古の真の意図を知るシーンが衝撃的だ。愛を捨てたと見せかけて、愛する直光を助けるための命がけの嘘。阿古を演じる柴本幸が、鬼気迫る無表情で背筋が凍るほどの冷酷さを見せるかと思えば、か弱さのなかで芯の一本通った激しさも見せる。彼女の存在感がこの作品を支えていた。ただ、多襄丸があっさり直光に殺されたり、今わの際に自分の名や宝刀を直光に譲ったりするのはどういう思惑からなのか。また、阿古が谷に突き落とされそうになっているところに直光がせっかく助けに来たのに、なぜ自ら飛び降りたのか。この辺りの登場人物の行動が唐突な印象をぬぐい切れなかった。


↓その他上映中の作品・メルマガ登録はこちらから↓