こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クララ・シューマン 愛の協奏曲

otello2009-07-27

クララ・シューマン 愛の協奏曲

ポイント ★★
DATE 09/7/25
THEATER CCKW
監督 ヘルマ・サンダース=ブラームス
ナンバー 177
出演 マルティナ・ゲデック/パスカル・グレゴリー/マリック・ジディ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


超一流のピアノの腕前を持った妻と前途洋洋たる天賦の才を持った青年、そのふたりを目の前にして徐々に失われていく己の理性を自覚する高名な作曲家。若き日のブラームスがロベルト&クララのシューマン夫妻の知己を得て、やがて彼らを凌駕するまでの音楽家になる過程で一途に秘めた愛を描く。ただ物語は事実に基づいているので大胆な解釈や柔軟な発想に乏しく、主要な登場人物3人のキャラクターは後世に名を残したアーティストにしては平凡。ロベルトは創作の苦悩より頭痛とアヘン中毒に苦しむばかりだし、クララはブラームスとの不倫には踏み切れず、ブラームスも野心的なのは最初のうちだけ。映像からは「ライン」の怒涛も「ハンガリー舞曲」の躍動も感じられなかった。


演奏旅行中に場末の酒場でブラームスの作品を聞いたシューマン夫妻は、デュッセルドルフの自宅に彼を迎え入れる。ロベルトはブラームスの将来性を見抜き、クララや子供たちも彼に対し家族同然に接する。その後ロベルトは徐々に精神の均衡を崩してゆく。


クララはブラームスを「二倍近くも年齢が違う」と、弟のように接しているが、ブラームスはどこかクララの肉感的な体に興味を惹かれているよう。しかし20代のブラームスがすでに7人の子を出産した中年女性に恋愛感情や性欲を覚えるのは通常では考えにくく、もしふたりの間をほのめかすのならばブラームスがマザコンだったいうようなエピソードが必要だ。ロベルトは「あんなに評価してやったのに」と、ブラームスが自分よりクララと親しくしていることに腹を立てるところをみると、やはりセックスにまではおよばなかったのだろう。映画はこの奇妙な三角関係にそれ以上は踏み込まず、むしろロベルトの病状悪化とシューマン家の困窮に軸足を置き、彼らの胸に宿る激しい情熱とは無縁だ。


ロベルトは脳外科手術を受けるが快方には向かわず、療養所で息を引き取る。そこからクララとブラームスの新たな関係が始まるのかと思わせておいて、ここでも精神的な愛を誓うだけで、「雪の如く純粋でダイヤモンドの如く鋭敏」と評された音楽のようなふたりの後半生はナレーションで語られるのみ。ロベルトの死後のふたりの心情をもっと掘り下げてほしかった。


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