こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

のんちゃんのり弁

otello2009-08-07

のんちゃんのり弁

ポイント ★★*
DATE 09/8/6
THEATER CM
監督 緒方明
ナンバー 186
出演 小西真奈美/岡田義徳/村上淳/岸部一徳
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


お惣菜としてではなく、ご飯そのものにさまざまな具材を混ぜ込み、栄養のバランスを取ろうとするお弁当。表層は海苔が敷き詰められているために見た目の美しさはないが、断面は色も種類も違う混ぜご飯が幾層にも重なってそれぞれのうまみを引き立てあう「小巻風のり弁」は、子役俳優が食べている姿を見ているだけでよだれがわいてくるほど。高級食材を使った豪勢なディナーよりも、近所の商店街で手に入るような材料だけで調理した、素朴だけれど飽きがこない懐かしい味と香りがスクリーンを通じて漂ってくる。映画は弁当と同様、ヒロインの自立を通じて下町のクセはあるけれど深く温かい人情を描く。


夫に離婚届を突きつけた上に娘を連れて実家に戻った小巻は、早速就活を始めるが、キャリアも資格もない彼女にはハードルが高い。ある日、娘の弁当が評判を呼び、友人・知人に試食してもらうと大好評、彼女は弁当屋を開く決意をする。


バツイチ子連れの小巻が人生を模索していく過程は悠長な「自分探し」などではなく、切羽詰まった中で生きていく手段を見つけるまでの試行錯誤。すべての面接で断られ、高給に引かれ雇ってもらった小料理屋も1日でクビになる。幼馴染の建夫とくっつきそうになったりもするのだが、お互い意識しすぎて微妙な距離感を縮められず、せっかく二人きりになってもいいところで邪魔が入る。挙句にダメ夫に娘を連れ去られるなど、何もかもうまくいかない。そんな小巻の不器用でも自分を曲げずに夢を追う姿は、思わず応援したくなるほど健気だ。


清楚なイメージが表に出る小西真奈美が、どぎつい東京訛りで小料理屋の板前に熱弁をふるったり、夫を口汚く罵った上に派手な大喧嘩をするシーンは、彼女の人形のような整った顔が邪魔をして、その思いと表情がちぐはぐだ。情熱や怒りはもっと視線にすごみを持たせなければ伝わらず、演技の幅を広げるには激しい感情表現を身につける必要がある。弁当作りに集中している時や、娘と二人きりの時に見せる優しい母の顔は非常に女性らしい繊細さを持つだけに残念だった。


↓その他上映中の作品・メルマガ登録はこちらから↓