こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

縞模様のパジャマの少年

otello2009-08-19

縞模様のパジャマの少年 THE BOY IN THE STRIPED PYJAMAS

ポイント ★★★
DATE 09/8/17
THEATER KGC
監督 マーク・ハーマン
ナンバー 193
出演 エイサ・バターフィールド/ジャック・スキャンロン/デヴィッド・シューリス/ヴェラ・ファーミガ/アンバー・ビーティ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


固く閉じられた鉄の扉、手前には縦縞の囚人服が乱雑に脱ぎ捨てられている。静謐な映像が饒舌に語る死のイメージ、それは強制収容所で命を奪われた人々の無念だ。ドイツ軍将校の息子と収容所に囚われたユダヤ人少年の間に芽生える有刺鉄線越しの友情は、戦争の大きなうねりの中に飲み込まれていく。映画はホロコーストの現場を舞台に、世の中で何が起きているのかを知らない子供たちが、その無垢な心に従ってお互いを理解していく過程で起きる悲劇を余情たっぷりの音楽で彩る。


父親の転勤で田舎の屋敷に引っ越したブルーノは、鉄条網で囲まれた奇妙な農場を見つけ、そこでパジャマ着た少年・シュムールと出会う。同じ8歳の2人は打ち解け、いつも瓦礫の陰で休んでいるシュムールのもとにブルーノは通い始める。


父は強制収容所所長の任務を全うすることが祖国への忠誠と考えている。母はできれば手を汚したくないと思っている。姉は軍国少女、副官は父が反ナチス思想で外国に亡命している。ドイツ軍内部でも考え方は一枚岩ではなく、ユダヤ人問題にしても各々温度差がある。そんな個人の思いなど関係なく、勝利のためには目の前のユダヤ人という敵を抹殺しなければならない。理性も良心も犠牲にして大義に従う、戦争がもたらす狂気が人々の運命を翻弄する中、ブルーノだけは他人への思いやりを育てていく。そのコントラストを、収容所の晴れ割った空で強調する映像が美しい。


一方のシュムールは死の意味を明確には知らないはずなのに、彼の表情は濃厚な死の影を引きずっている。それは死が日常となっている者だけが持つ虚無感だ。それでもブルーノを信じる彼のまなざしが痛々しい。やがてブルーノはシュムールに囚人服を借りて収容所に潜入する。そこは父が作ったプロパガンダフィルムとは全く別の荒涼とした世界。ブルーノはドイツ人としてホロコーストを体験するのだが、彼の苦しみこそドイツ人、いや、すべての人類が戦争の愚かさの象徴として受け止めるべきものなのだ。


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