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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ピリペンコさんの手づくり潜水艦

otello2009-08-20

ピリペンコさんの手づくり潜水艦

ポイント ★★*
DATE 09/8/18
THEATER EB
監督 ヤン・ヒンリック・ドレーフス/レネー・ハルダー
ナンバー 194
出演 ウラジミール・アンドレイェヴィチ・ピリペンコ/アーニャ・ミハイロヴナ・ピリペンコ/セルゲイ・セミョーノヴィチ・ホンチャロフ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


壮大な夢を実現するために寝食を惜しんで努力するのでもなく、挑戦することで自分や周りの人間に変化をもたらそうとしているのでもない。ただ、膨大な歳月をかけて、思い付きを形に変えようとしている。そんな肩の力が抜けたおっさんの風変わりな道楽をカメラは丹念に追う。家族に反対されても他人に白い目で見られても軽く受け流し、やるべきことをやれるときにコツコツと積み重ねる。その、情熱を表に出さず淡々と作業を続けていく主人公の姿がすがすがしい。


ウクライナの草原地帯で潜水艦作りにいそしむピリペンコ。年金暮らしながら魚の養殖や畑の収穫にも手を貸してためたカネで部品を買いあさっている。やがて完成した潜水艦を近くの池に沈め予行演習、彼にはこの潜水艦で黒海に潜る目標があった。


支給されたばかりの年金で潜水艦用のバッテリーを買おうとして妻に小言を言われたり、乗務員としてあてにしていたセルゲイが試運転に来ないなど、なかなか計画通りにはいかない。それでもピリペンコは怒りも落胆も表に出さず、その事実を受け止める。予行演習では水漏れや潜望鏡が曇るなど不具合も明らかになるが、夜には羊をつぶして宴会が行われるなど、細かいことはいちいち気にしない。そこはカネや効率とは全く違う価値観が支配していて、人間同士の緩いつながりに懐かしさとうらやましさを覚える。


トラックに潜水艦を載せたピリペンコとセルゲイは黒海を目指す。山中で道を見失ったり、進水ポイントを決めていなかったりと、潜水艦の整備はしていても潜航のための準備や下調べは何もせず行き当たりばったり。この辺りの迷走ぶりは思わず心配してしまうほどスリリングかつ笑いを誘う。やっと潜った黒海は水が濁っている上にクラゲと海藻しか見えないが、期待はずれに終わってもピリペンコは決して失望しない。釣った魚を焼きながら、今度は紅海を目指そうという2人の会話に、人生における豊かさとは何かを考えさせられた。


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