こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

無防備

otello2009-08-26

無防備


ポイント ★★★
監督 市井昌秀
ナンバー 199
出演 森谷文子/今野早苗/西本竜樹/中村邦晃
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


工場では機械の一部になって働き、家では家庭内別居中の夫との間にほとんど会話はない。交通事故で流産を経験した女が、それ以上自分が傷つかないように息をひそめて生きている姿が非常に不気味で、彼女の感情がいつ爆発するかというハラハラしたサスペンスがスクリーンを覆う。彼女の、同僚の妊婦を見る冷めた目つきが、思いつめたような狂気をはらんでいく過程はホラー映画を彷彿させる緊張感。映画は、子供がほしいのに夫に相手にされない女と、出産を無邪気に待ちわびる妊婦のコントラストを通じて、命の大切さと人生の再生を見つめていく。


プラスティック工場で検品の仕事をする律子は、職場と家を往復する単調な日々。ある日、工場に千夏という妊婦が入り、律子と仲良くなっていく。やがて千夏を見ているうちにまた子供を作る気になった律子が夫にセックスを迫るが拒絶されてしまう。


律子は食卓で、夫は自室でそれぞれ夕食をとり、寝室も別。だらだらと同居し、愛のない暮らしに疲れ果ている。焼いたステーキを用意しても夫は帰らず、律子がビデオ返却に行っている間に帰宅し寝てしまっている夫というシーンに、この夫婦のすれ違いと本音を口にしない2人のささくれた心情が細やかに表現されている。その後の、律子がもう一度子供を作ろうと、風呂に入る夫に下着だけで迫る場面が恐ろしいまでの迫力。律子の分厚い贅肉の付いた背中や腰回りが、女として扱われてこなかった日々の長さを饒舌に物語る。


そして、律子は耐えきれず工場を無断欠勤して家出する。だが、お互い複雑な思いを抱いていた千夏が彼女を見つけ連れ戻そうとする。憎いはずの千夏に助けられるが、今度は千夏が産気づき、律子は必死で助けを呼ぶ。泥だらけになりながらも千夏の出産に立ち会い、生きることの尊さ、他人とかかわることの素晴らしさをあらためて実感するような律子の涙は、過去をすべて洗い流し未来を見据えるようなさわやかさを宿していた。


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