こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

PUSH 光と闇の能力者

otello2009-08-28

PUSH 光と闇の能力者


ポイント ★★*
DATE 09/8/26
THEATER KT
監督 ポール・マクギガン
ナンバー 200
出演 クリス・エヴァンス/ダコタ・ファニング/カミーラ・ベル/ジャイモン・フンス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


混沌とした大都会の片隅に身を隠す超能力者、彼らはその能力を周囲に悟られずひっそりと生きていかなければならない。自由を奪われるか命を狙われるか、おおっぴらにパワーを使えるのは政府機関の手先になった者たちだけだ。念動力、未来予知、記憶改竄、音波砲……。主人公たちが追われ、隠れ、そして反撃する過程でさまざまな超能力が飛び交う。しかしそれらはCGで装飾しためくるめくような映像ではなく、派手に物が壊れ人が死んでもむしろ地味なほど。あくまで表には出られない彼らの悲哀が抑え気味の演出からにじみ出ていた。


香港に暮らす二ックのもとにキャシーという少女が訪ねてくる。予知能力を持つキャシーは二ックにスーツケースを持つ女・キラを探すように依頼する。超能力者養成・管理機関ディビジョンと中国の超能力者もキラを追っていて、カギを握る二ックとキャシーは両組織から追跡される羽目になる。


肉体や物体に直接働きかけ変化をもたらすエネルギー系よりも、相手の記憶に働きかけ心を操ろうとするマインド系こそ、最大の武器となる。この能力を持つ逃亡中のキラはまだ発展途上、追手のカーバーは熟練の使い手、彼らは持てる力をフルに発揮し、人や仲間を操る。一応、物語は二ックの視点で語られているのだが、中国の予知能力者に対抗するために手紙で指示するなどの策を練るあたりから混然となり、二ック自体がキラが植えつけたニセの記憶に沿って行動しているのではないかと錯覚させるほどだった。それとも最強の予知能力を持つキャシーの母が描いた未来なのだろうか。どこかリアリティの乏しい映像は妄想と現実の間を行き来しているようだった。


二ックの父の予言めいた遺言から二ックの父とキャシーの母の関係が類推されるが、それがストーリーの伏線となって活かされていないのが残念だ。また、キラもカーバーも敵にニセの記憶を送り込む時に瞳が大きくなるが、彼ら自身は自分の記憶が自分のものである確信はあるのだろうか。そのあたり彼らのアイデンティティクライシスをもう少し突き詰めてほしかった。


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