こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジャック・メスリーヌ Part1 ノワール編

otello2009-08-29

ジャック・メスリーヌ Part1 ノワール編 L'ennemi public n°1

ポイント ★★★
監督 ジャン=フランソワ・リシェ
ナンバー 201
出演 ヴァンサン・カッセル/セシル・ドゥ・フランス/ジェラール・ドパルデュー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


無鉄砲かと思えば機転が利き、すぐに頭に血が上るけれども用意周到な計画も立てる。大胆な行動は強運を呼び込み、仲間への信頼と権力への不屈の精神は最後まで衰えない。かつてフランスで「公共の敵No1」と呼ばれた男が、いかにして裏社会へ落ちていったかをパワフルなタッチで描く。悪党のパシリから始め、銀行強盗を生業にし、逃亡と脱獄を繰り返す主人公は、欲望の赴くままに生きるのが社会に対する抗議と勘違いしている。映画はことさら英雄視はせず、彼の虚像をはぎ取り素顔に迫ろうとする。


アルジェリア戦争から除隊後パリに戻ったジャックは、友人のポールと共にギドというボスのもとで用心棒や泥棒として働いていた。強盗で捕まり服役後、娼婦のジャンヌと共に今度はカジノを襲うが、警察に追い詰められモントリオールに脱出。そこでも誘拐事件で指名手配を受け、米国に逃げる。


ポールとギドの誘いに出かけようとするジャックは妻の反対に会うが、「お前より仲間を選ぶ」と妻の口に拳銃を押しこむシーンが強烈。子供ができて平和な暮らしを望む妻に、あくまで他人のカネを奪うことしか考えないジャック。それは親の愛に恵まれなかったとか失業率の高さといった家庭や社会の問題ではなく、ジャック自身が地道に働くことを拒否し、犯罪者というハイリスクハイリターンな太く短い人生を確信犯で選んだということ。まだ電子機器のない時代、セキュリティが甘くあまりにも簡単にカネが手に入る様子は拍子抜けするほどスリルに乏しい。


やがてカナダの刑務所に収監されたジャックは、監視の甘さを突いて脱獄に成功したのち、刑務所を襲撃して協力者を脱獄させる。この命がけで約束を守る律儀さこそが、ジャックを犯罪者仲間から尊敬を集めるだけでなく一般市民からも人気を得た理由に違いない。バーで暴れる客の膝を打ちぬいたり、愛人に暴力をふるった情夫をリンチした狂犬のような若き日から一皮むけ、新聞の一面に顔写真が載り得意げな顔をするジャックが印象的だった。


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