こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ワカラナイ

otello2009-09-04

ワカラナイ

ポイント ★★*
監督 小林政広
ナンバー 208
出演 小林優斗/柄本時生/小澤征悦/横山めぐみ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


極端にセリフが少ない長回しのシーンの連続に、息苦しくなるような閉塞感をもよおす。そのトーンは最初から最後までずっと変わらず、見ていてウンザリするほど。しかし単調な映像は、周囲が援助してくれない状況で少年が感じる押しつぶされそうな心細さと、先の見えない明日に対してどうしたらいいのか分からないという途方に暮れる思いをリアルに実感させる。生活を維持するノウハウを教えてくれる人間が誰もいなくても、なんとか食べ物を探す彼の姿勢が健気だ。


入院中の母を抱えた亮はコンビニでバイトしながら、電気も水道も止められたあばら家で、ランプの明かりとペットボトルに汲み置いた水で暮らしている。ある日、店の商品を盗んだのがバレてバイトをクビになり、その直後に母が息を引き取る。


マイクの性能が良すぎるのか、亮の日常を追うハンディカメラは鳥のさえずりから自動車のエンジン音、登場人物の足音まで拾う。過剰なまでの街の不協和音が非常に耳障りで、見る者の神経を苛立たせる。もっと静謐の中に亮を置いた方が彼の孤独を強調できたはずだ。それとも生きるということはカネを得ることで、1人の殻にこもっていても世界は否応なしに彼の中に侵入してくるというメタファーなのだろうか。亮は母親の遺体を病院から盗み水葬にするが、この作品のいちばん切なくも美しいシーンだけは濃厚な死の空気が雑音を中和していた。


その後、自分たちを捨てた父を捜すために亮は東京に出る。地図と住所を頼りに探し当てた父に拒絶され、警察に保護される亮。そこで初めて、一切救いの手を差し伸べてくれなかった行政に不平を洩らす。大人は信用できない、社会は助けてくれない、施設に入るよりは1人のほうがいい。己を取り巻くあらゆるもの対する不信感が、再び亮を走らせる。その先にあるのは自由や希望などという甘いものではないのはわかりきっている。それでも独力で前に進もうとする亮の姿が救いだった。

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