こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

風が強く吹いている

otello2009-09-09

風が強く吹いている

ポイント ★★★★*
DATE 09/9/7
THEATER SC
監督 大森寿美男
ナンバー 213
出演 小出恵介/林遣都/中村優一/ダンテ・カーヴァー/斉藤祥太/斉藤慶太/川村陽介/橋本淳/森廉/内野謙太/水沢エレナ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


仲間を信じてタスキを待つ。自分を信じて待つ仲間にタスキをつなぐ。10人の若者がハードなトレーニングをこなすうちに友情と信頼をはぐくみ、夢に賭ける青春を正攻法で描く。さらに予選会からクライマックスのレースは大掛かりなロケが行われ、実物さながらの緊張感。抜きつ抜かれつの展開に手に汗握り、走りぬいた達成感にランナーズハイにも似た陶酔を覚えた。登場人物が抱えるそれぞれの苦悩と葛藤、それを乗り越えて成長し、ただひたすら走ることに答えを求める姿が、神々しいほどに美しい。


長距離走選手のカケルは大学入学早々、ハイジに声をかけられ、個性的な住人が寝起きする陸上部の寮に入る。カケルの歓迎会で「この10人で箱根駅伝を目指す」とハイジが宣言、素人同然の部員をあきれさせる。


高校時代、天才ランナーとして鳴らしたカケルは不祥事で人間不信になっている。ハイジはそんなカケルを優しく見守り、先輩たちも衝突しながらもカケルと打ち解けていく。カケルもまた、ハイジとハイジの夢を共に追おうとする先輩たちに心を開いていく。どんな状況にも笑顔を絶やさず部員全員の面倒をすべて引き受け、己の夢をみんなの目標に変えていくハイジの、温厚な人柄の描写が濃やかだ。走りこみは必要だが、走りすぎても故障するという難しさ、栄養面や個人の能力に応じた練習メニューなど、長距離走の科学的な面を押しだして、「スポ根」濃度を下げているのも暑苦しくなくてよい。


その後、予選会をなんとかパスして、本戦に臨むハイジたち。大手町から箱根を往復する正月恒例の風景を選手たちが駆けるのだが、これが実際の箱根駅伝を体験しているかのよう。東京のビル群から横浜の住宅地、湘南の海岸から箱根の山と、1区から10区まで、選手たちがひたすら次走者の待つ中継所を目指すシーンは本物と錯覚するほどの臨場感だ。素人同然のランナーが8人もいるチームが短期間で箱根駅伝を走れるわけはないと思いつつも、この競技場面のリアリティが、ハイジの、そしてこの作品の作り手たちの壮大な夢を実現させていた。


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