こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サマーウォーズ

otello2009-09-23

サマーウォーズ


ポイント ★★★★
監督 細田守
ナンバー 225
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


意思、心、感情etc. さまざまな言葉で表現される人間の精神活動はコンピュータのプログラムで再現できるのか。可能だった場合、どういう結果が待ち受けているのか。巨大サーバー内に構築された仮想空間ではあらゆる人間がアバターを持ち、実生活さながらの行動をとっている近未来、その世界を支配しようとする悪意が暴走する。高度にデジタル化された回線でつながったネットワークに君臨するプログラムに対し、究極のアナログともいえる家族というネットワークで対抗する。ネット社会が陥るかもしれない恐怖に対し、人の良心を最大の武器に立ち向かう姿が素晴らしい。


数学の天才・健二は憧れの先輩・夏希に頼まれて長野にある彼女の曾祖母・栄の家に行く。そこは栄の誕生日を祝うために一族が集合、健二は夏希の婚約者と紹介される。その夜、謎の数式を健二が解くと、翌朝世界中でOZという仮想空間が大混乱をきたしていた。


山深い砦といった様子の栄が住む古い豪邸がディテールまで描きこまれていて目を見張る。昔ながらの木造建築、大広間から洋室、中庭、厨房、周り廊下まで備えた武家屋敷。30人近い親類縁者が集ってもなお余裕ある作りは格式を思わせる。そして屋敷で過ごす人々誰一人としておろそかに扱わず、何らかの役割を持たせるという几帳面さ。家長主義、かいがいしく働く女たち、古いしきたりといった伝統的な血縁で結ばれた人間関係が丁寧に描写された前半が、OZ内のパラレルワールドと対比をなす。嘘がばれた健二が、大家族が楽しかったというシーンに、便利になりすぎた文明に対する鋭い批判が込められていて、人間同士がきちんと顔を合わせてコミュニケーションをとることの大切さが身にしみる。


やがて健二と夏希、格ゲーオタクのカズマをはじめ、一族はOZ内で神の如く君臨するラブマシーンというプログラムを倒すために力を合せ、策を練る。その過程でも民族国籍を超えた善意と信頼の集積がラブマシーンを追い詰め、理性の集合知たる正義の勝利を高らかに歌い上げる。日本の原風景と最新のIT事情を見事に融合させた会心の出来栄えだった。


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