こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

一年之初

otello2009-09-27

一年之初

ポイント ★★
監督 チェン・ヨウチェ
ナンバー 227
出演 クー・ジャーヤン/モー・ツィイー/クー・ユールン/チャン・ロンロン/ワン・チングァン/シュー・アンアン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


うまくいかない人生を思い通りに変えたい、そんな願いを胸に悶々と抱く若者たち。ある者はドラッグに逃避し、ある者は暴力に走り、ある者は幸運に恵まれる。大晦日の夜から元旦の朝まで、さまざまな若者が奇妙な体験を通じて自分たちの日常を振り返り、一方で将来の展望を夢見る。その映像は斬新なカットと幻想的なシーンで彩られ、現実と妄想を行き来する。しかし、複雑に入り乱れるエピソードとキャラクターのおかげで、物語は脈絡をなくし混迷を極める。せっかく研ぎ澄まされたセンスとオリジナリティあふれる表現力を持っているのに、なぜわざわざわかりにくい編集をするのだろうか。


現場で失敗ばかりの映画アシスタント・パンは、密かに思いを寄せている主演女優のフィフィとリハーサルで沿い寝する。映画監督のリーシャンは撮影中のフィルムのラストを決めかねている。タイ人の不法就労者・ディンアンは身分証がないことに不満を抱いている。ドラッグディーラーのハオズは恋人と胡蝶という女の行方を追う。


それぞれの登場人物の主観で見た世界は、想像力の迷宮のよう。人の心の内を覗きこむようなビジョンはどこかリアリティを欠き、強調したり退行させたりする色彩が、彼らの立ち位置をあやふやにする。ドラッグで酩酊する女が「この世のすべてはニセモノ」と感じるくだりは、生きることに目標を見いだせないすべての人間の意識を顕在化させ、幻覚を見ている彼女の感覚だけがリアルだった。


だが、工事中の道路の終点で若者たちがブロックの上に座り時間について語り合う場面は非常に陳腐。前方を未来、後方を過去、今いる場所が現在などというのは主体が移動しているから成り立つ比喩のはず。「パーフェクト・ワールド」のセリフをトレースするならもう少し状況を作り込むべきだろう。さらにイマジネーションの飛躍は月面にまで及ぶが、彼らが待ち望む未来とどういう関係があるのか見えてこない。年が改まり、皆それなりにハッピーエンドを迎えるが、そこに至るまでの彼らが抱える苦悩をもっと描きこんでほしかった。


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