こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

空気人形

otello2009-09-29

空気人形

ポイント ★★★
監督 是枝裕和
ナンバー 229
出演 ペ・ドゥナ/ARATA/板尾創路/高橋昌也/余貴美子/岩松了
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人はだれかとかかわりあって生きているはずなのに、登場人物はあえて煩雑な人間関係を避け、ひとりでいるのを好む。彼らを見つめるカメラは寂しさをとらえようとするが、本人たちはその暮らしに満足しているよう。映画は、無垢な心を持った人形が体験する誕生と死、愛と別れを通じて、人生の苦悩を圧倒的な閉塞感で描く。将来の展望や夢がなくても命ある限り生活ていかなければならない、そんな人々の現状をあるがままに受け入れる姿勢は、押し付けがましさがなくて心地よい。


ファミレス店員の秀雄はのぞみと名付けたラブドールを本物の恋人のように慈しんでいた。ある日、のぞみに心が宿り、彼女は街に散策に出かけ、さまざまな人々を観察する。秀雄が家にいない昼間だけレンタルビデオ店でバイトを始めたのぞみは、店員の順一に恋をする。


帰宅した秀雄はのぞみに話しかけ、仕事の愚痴を垂れ、一緒に食事をとり、風呂で体を洗っていやる。しかし、のぞみの目は焦点を遠くに結んだまま。秀雄はのぞみとセックスした後、人工膣を洗う。誰にも打ち明けられない胸の内をさらし、性欲を発散させ、それでも最後は自分で後始末しなければならない。自らの願望と冷徹な現実のギャップが見事に凝縮されたシーンだった。さらにのぞみに「心は面倒くさい」と言い放つ場面は、孤独の聖域を侵さないでほしいという彼の本心を解き放っていた。


のぞみは知人を増やしていく過程で、人がいかに孤独であるかを学んでいく。彼らの世界では、まるで己の孤独を確認するのが生きている証のよう。一方のぞみは順一に空気を吹き込まれることでしかその生を実感できない。だが、心を持ってしまったのぞみが、結局得られたのは孤独だけ。ただ、順一との命がけの性行為が悲劇的な結果を迎えてもそこには死の痛みが伴わず、茫洋とした戸惑いだけの結末からは、愛し愛される喜びを知った空気人形の哀しみが伝わってこないのが残念だった。


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