こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マイマイ新子と千年の魔法

otello2009-09-30

マイマイ新子と千年の魔法

ポイント ★★★
監督 片渕須直
ナンバー 228
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ガス式の冷蔵庫はあっても電話やテレビはまだ普及しておらず、子供たちのおやつはポン菓子。食べることに精いっぱいだった「戦後」は終わり、農村の生活は平穏を取り戻している。それでも、まだまだ便利さとは程遠く、人々は濃い人間関係に縛られて生きている。そんな田舎の農家で育った少女と、都会から来た転校生の間に芽生える友情を中心に、彼らの豊かな想像力と繊細な感受性が描かれる。もはや遠い記憶と記録の中にしか残っていない時代の家屋や風景、そして人々の生活が精密に再現され、知らないはずなのになぜか懐かしく、しばし子供のころに戻ったような感覚になる。


防府の小学生・新子は麦畑の用水路が1000年前からあると祖父に聞き、その時代のお姫様に心をはせる日々。ある日、東京から貴伊子が転校してくるが、新子は早速彼女と仲良くなり、毎日放課後を一緒に過ごすようになる。


香水や色鉛筆、ウイスキーボンボンといった田舎にはない「文明の香り」を貴伊子は身にまとっている。それが原因で最初はいじめられるのだが、空想の中で都から来た姫と通じている新子だけは屈託がない。おそらく貴伊子は東京では習い事や勉強に忙しく過ごしていたのだろう。そんな暮らしから解放されて有り余る時間の過ごし方を新子と友人たちから学んでいくうちに、彼女にとって本の中の物語でしかなかった冒険が現実のものになる。それが小川をせき止めてダムを作る程度のものでも、都会育ちの貴伊子には得難い経験だったの違いない。そのあたりの彼女の順応の早さが子供らしくてたくましい。


やがて、憧れの先生の不倫や友人の父の自殺などを経て、新子は少しだけ大人の世界を垣間見る。そこでも、幼年期の終わりというほどの明確な脱皮ではなく、ほんの少し進歩しただけのつつましさがほほえましい。同年代の友人と共に遊び、笑い、泣き、思いを同じくする。そうした体験の積み重ねが子供の成長に一番大切であることをこの映画は教えてくれる。


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