こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アンヴィル!

otello2009-10-21

アンヴィル! ANVIL! THE STORY OF ANVIL

ポイント ★★★
DATE 09/10/16
THEATER SONY
監督 サーシャ・ガバシ
ナンバー 246
出演 スティーブ“リップス”クドロー/ロブ・ライナー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


20年以上前に味わった栄光の日々。それは短い間だったが、確実に彼らの人生に喜びと誇りをもたらした。そして50歳を過ぎてもなお、もう一度メジャーに返り咲きたいという夢を諦めずにギターを手放さない男は、いまだチャンスが来ると信じている。生活のためには大人にならなければならない、それでも大人になりきれない部分を捨てずに持ち続けている、そんな音楽に命をかけた男たちの姿を脱力感たっぷりにカメラは追う。下品な歌詞と演奏で社会に反抗することが彼らの生き方だった若いころとは反対に、社会と折り合いをつけながらも細々とがんばっている姿が、見る者に勇気を分けてくれる。


給食デリバリーの運転手・リップスと解体現場で働くロブは、かつてアンヴィルというヘビメタバンドで一世を風靡した過去を持つ。今も小さなライブハウスでステージに立つ二人に、ヨーロッパツアーのオファーが来る。


リップスもロブも彼らの“現在”を否定しないところがよい。「昔はオレもスターだった」というような驕りはまったくなく、決して楽しいとは思えないような仕事に精を出している。ところが、いざステージに立つと血がたぎり心に火がつく。頬の肉はたるみ、頭髪は薄くなってもスタイルは不変、だからこそ彼らの姿に自分たちの青春を重ねるファンがついてくる。その一方で、トラブル続きで散々だったヨーロッパツアー。この年齢で挫折するのは非常につらいはずなのに、彼らはめげずに挑戦を繰り返す。


やがてリップスとロブはドーバーのプロデューサーのもとで再起を図るが、そこでも他愛ない原因で喧嘩し、30年来の友情を壊してしまったりする。彼らを見ているとそのメンタリティは20代のころから成長していない。それどころか、かつて世間の良識や道徳に盾つき、ぶち壊そうと体を張った2人なのに、時が流れ価値観が逆転し今や彼らの方が時代遅れになっている。新しいものほどカッコいいと思われる現代において、何十年も変わらないもののよさをアンヴィルは身を持って体現してくれた。