こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

きみに微笑む雨

otello2009-10-23

きみに微笑む雨 好雨時節

ポイント ★★*
監督 ホ・ジノ
ナンバー 249
出演 チョン・ウソン/カオ・ユアンユアン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


中国人の女と韓国人の男、母国語で同胞と会話をするときは饒舌になるのに、ふたりの会話は英語。自分の素直な思いを英語に翻訳することで強いエモーショナルな部分がそぎ落とされ、どこかよそよそしさが抜け切れず、お互いの腹を探り合うような距離感がなかなか縮まらない。なんでも話せた学生のころと違い、別々の人生を歩んだ歳月というブランクが慎重にさせるのか、あと一歩が踏み出せない。そんな、もう若くない男と女が愛と分別の狭間で迷う姿が、緑濃い古都を舞台に詩的な映像で描かれる。


成都に視察に来たドンハは杜甫草堂でガイドをしているメイを見つける。かつて米国留学中に同窓だったふたりは好意を持っていたにもかかわらず進展のないまま別れ、数年ぶりの再会に胸を躍らせる。しかし、メイは1年前の四川大地震で大切なものを失っていた。


思わせぶりな言葉でドンハの気持ちを振り回すメイ。ドンハが「学生時代好きだった」と告白しても巧みにはぐらかして主導権を握る。このあたり大人の恋の駆け引きと見せかけて、時折見せるメイの不安定な表情に違和感を覚えさせる展開。さらにドンハに記憶違いを訂正されると、空港まで駆けつけてドンハの帰国を延期させたうえ、その気になっている彼を押しとどめる。双方今の私生活について尋ねないところに、今度こそこの恋が実るのではないかというほのかな望みを持っているようでいて、心に隠し持った事実がキスより先は許さない。その繊細な心理の平仄がもどかしいまでに期待をもたせる。


やがて、メイは運転中に失神し病院に運び込まれ、そこでメイの夫が四川大地震の犠牲になっていた過去をドンハは知る。きっとメイは前夜、食事の時に夫のことを打ち明けてドンハに決断を迫ろうとしたのだろう。ところがドンハのKYな同僚のせいで機会を逸し、夫への愛かドンハへの想いか、胸の内を吐き出せないうちに重圧に耐えきれなくなったに違いない。ただ、悲しみを払拭しきれないうちにやってきた新たな恋のチャンスに揺れ動くメイの感情を、もう少し具体的なメタファーで提示してほしかった。