こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

沈まぬ太陽

otello2009-10-26

沈まぬ太陽

ポイント ★★★*
監督 若松節朗
ナンバー 252
出演 渡辺謙/三浦友和/石坂浩二/松雪泰子/鈴木京香
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


己の信念を貫くために出世も家族も犠牲にする男と、出世のためには同僚を裏切り悪事に手を染める男。巨大機構で対照的な道を進む2人の男を通じて、会社とは何かを問う。本来は客の利便や安全を第一に考えるべき航空会社が、いつしか政治家・官僚・上層部の人間たちが甘い汁を吸うための組織に堕している。そんな中でも決して筋を曲げなかったゆえに運命を翻弄された主人公の愚直な生きざまが心を打つ。個の利益ではなく組織の大義に生きようとする、たとえその組織から非情な仕打ちを受けてもきっと理解者が現れると信じている「昭和のサラリーマン」を渡辺謙が熱演する。


国民航空労組委員長としての強硬な姿勢が会社側に嫌われた恩地はカラチ支店に左遷される。その後も海外僻地勤務が続き、やっと日本に帰って来ると、ジャンボジェット機墜落事故が起き、恩地は遺族の世話係に任命される。


どれほど露骨な嫌がらせにあっても、恩地の頭に「辞表を出す」選択肢が浮かばなかったことに驚きを覚える。もちろん懲罰人事を受けているかつての労組仲間を見捨てられないのだろうが、ほかにも超一流企業に勤めている世間体と高給は捨てがたい魅力だったに違いない。そもそも恩地はこの会社で何をしたかったのか。大きな目標などや夢を語るわけではなく、ただ目の前のタスクを忙しげに片付けて満足しているところが、モーレツサラリーマンの時代を象徴している。


遺族の世話係になって、恩地は初めて仕事に誇りを持てたのではないだろうか。肉親を失った悲しみ苦しみ、そしてそこから立ち直ろうとする人々。彼らの手助けをしているうちに自分の不遇など些事に思うようになる。非難の矢面に立つ恩地はある意味遺族以上のつらさを抱えているから遺族の信頼を勝ち得るのだ。だからこそ、会長に職務の続行を希望し、願いが叶わず再びナイロビに飛ばされても平静な気持でいられる。ひとりの人間の思いなどちっぽけなもの、それでも厳しさに耐え思いを持ち続ければ、希望となる。その過程がしっかりとした筆致で描かれ、長時間退屈せずに鑑賞できた。