こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

母なる証明

otello2009-11-02

母なる証明

ポイント ★★★*
DATE 09/10/31
THEATER WMKH
監督 ポン・ジュノ
ナンバー 258
出演 キム・ヘジャ/ウォンビン/チン・グ/ユン・ジェムン/チョン・ミソン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


無意識に手足が動き踊り出してしまう心理とはどんな状態なのだろう。それは信じていたものが崩れ去った絶望なのか、信じたかったことが現実になった安堵なのか。息子は絶対に潔白という根拠の希薄な確信を頼りに、女子高生殺人の容疑者として逮捕された息子の無実を晴らそうとする女の姿を通じて、知的障害者を子に持ってしまった母親の苦悩を描く。母と息子、成人してもなお一つの布団で眠る濃密な親子関係が、時に生きる糧になり死にたいほどの重荷にもなる。映画は彼女の直情的な行動の裏にある繊細な感情を丁寧に掬いあげ、映像は息のつまりそうな緊張感をはらんでいる。


漢方薬店を営む母と暮らすトジュンは泥酔した帰りに路地で女子高生に声をかける。翌日、その女子高生は死体で発見され、トジュンは容疑者として警察に連行、どうしてもトジュンが犯人と思えない母は警察に掛け合うが門前払いされ、独自に調査を開始する。


道路に流れるトジュンの小便、床にこぼれたペットボトルの水、土間にしみ出す老人の血と廃油。もどかしさとあきらめ、恐怖、そして決意。苦虫をかみつぶしたような表情を変えない母の心が、小さなきっかけで特定の心情に支配されていく過程を、液体がゆっくりと広がっていくメタファーで表現する手法が強烈。母の胸の内は、ただトジュンへの思いで占められているようで、狡猾な計算とこんな息子を与えた運命への憎悪が複雑に絡み合っているのだ。


肝心の事件についてはほとんど覚えていないのに、無理心中しようとして農薬を飲ませた過去は覚えているトジュンに、母は底知れぬ負い目を感じている。自立を促すより溺愛で贖罪の気持ちを伝えようとするが、トジュンは十分に理解できない。母にできるのはトジュンの罪の証拠を隠滅し、自分も同じ罪を背負い、2人の未来をより強固に結びつけることだけだ。彼女は鍼を打って己の記憶も消し、トジュンとの平穏な日常に戻ろうとする。愛ゆえの身勝手、たが、この結末では被害者やトジュンの身代わりになった少年は救われず、非常に後味が悪かった。