こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女

otello2009-11-28

ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女

ポイント ★★★★
監督 ニルス・アーゼン・オプレウ
ナンバー 280
出演 ノオミ・ラバス/マイケル・ニクヴィスト/スヴェン・バーティル・トープ/ステファン・サウク
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


新聞に掲載された一枚の写真から連続して撮影されたネガにたどりつき、被写体の表情が変化するを発見する。平穏な表情が恐怖に一変する様子を探し出すという調査報道に携わるジャーナリストならではの観察眼と根気。さらに残された数字が迷宮入りしていた惨殺事件に結びつき、血ぬられた一族の恥部が闇から浮き上がる。大昔に起きた失踪事件を洗いなおす主人公が、警察も解明できなかった真相を突き止めていく過程がアイデアに満ち溢れ、地道にパズルのピースを埋めていく作業とリアルな暴力が交錯し、スリルとインテリジェンスを兼ね備えた上質なミステリーに仕上がっている。


雑誌記者のミカエルは大富豪のヘンリックから40年前に行方不明になった姪のハリエットの再取材を請け負う。一方、ミカエルの身辺を調査しているリスベットは、ハリエットの日記に記された謎が解けずに立ち往生しているときにヒントを与える。


リエット失踪事件は幾重にも壁が張り巡らされ、関係者の口も堅い。しかし、ハッキングをはじめ尾行・張り込み能力に優れたリスベットの協力を得てミカエルの調査は大幅に進捗、封印された過去をこじ開けることで、ヘンリックの一族に熱心なナチス信奉者がおり、その思想からユダヤ人排斥、さらに聖書の言葉にヒントを得た連続猟奇殺人まで掘り起こしてしまう。練りに練った設定と張り巡らされた伏線・副次的な構成が重厚な演出に支えられて、息詰まるような緊張感を醸し出す。


物語の根底に流れるのは女性蔑視の思想だ。女たちはみな男たちの歪んだ性欲の犠牲者で、40年前の女たちはまだ戦うすべを持たず圧倒的な暴力の前では無力。性的暴行を受けたリスベットだけは強烈な仕返しをするが、彼女が自分を凌辱した男の体に刻む下品な言葉が、すべての虐げられた女たちの怨念を象徴しているかのようだった。フィルムに焼きつけられた事実と、写されなかった真実。ミカエルとリスベットの記憶力と洞察力・行動力と技術力が見事に一体となって一枚の写真から真相を解き明かす壮大なドラマは一瞬も目が離せなかった。