こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

抵抗/死刑囚の手記より

otello2009-12-12

抵抗/死刑囚の手記より
UN CONDAMNE A MORT S'EST ECHAPPE OU LE VENT SOUFFLE OU IL VEUT

ポイント ★★★
監督 ロベール・ブレッソン
ナンバー 293
出演 フランソワ・ルテリエ/シャルル・ル・クランシュ/モーリス・ベアブロック
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自動車のドアノブ、狭い独房、木製のドア、スプーンで作ったノミ、高窓からみた中庭・・・。主人公は目で見た世界を分析し、脱走のプランを練る。モノクロの画面は淡々と彼の行動を描写するが、映像にかぶせられた独白が心理的な緊張感を盛り上げる見事な演出だ。カメラと対峙する俳優は感情を大げさに表現することを拒み、あくまでリアリティに徹する。それゆえ狭い独房で繰り広げられる外部との通信、道具の製作といった脱走の準備はこの上ないテンションをはらんでいく。


独軍占領下のリヨン、護送中の車から脱走を試みたフランス人フォンテーヌ中尉は新たな収容所に収監される。すぐに次の脱走を計画するフォンテーヌはドアの羽目板を削り脱出経路を模索する。


時折聞こえる遠くの汽笛は、フォンテーヌの自由への渇望なのだろう。捕虜の身に甘んじているわが身を恥じ、一刻も早く祖国のために戦いたいという愛国心が根底に感じられる。そして、隣房との壁をノックしてのコミュニケーションは孤独をいやす薬となる。一方、ほぼ同時に聴こえる数発の発砲音は銃殺刑が執行された証。脱走が失敗したらもちろん処刑だが、逃げずにいても死刑になる運命のフォンテーヌにとっては、同胞の命がけの励ましと聴こえたに違いない。乏しい情報源の中、さまざまな音が彼の五感を刺激し、不屈の意思を研ぎ澄ましていく過程がスリリングだ。


いよいよ彼自身の処刑日が迫る中、ジョストという青年が同房に収容される。フォンテーヌは彼をスパイではと疑うが、脱走を延期する時間的余裕はない。仕方なくジョストを誘い、窓枠で作ったフック、シーツを割いて作ったロープを手に羽目板をはずして屋根に上る。しかし見張りの巡回がなかなか途切れず、身をひそめたまま何時間も屋上で待機することになる。この辺りは、フォンテーヌのジョストに対する疑心暗鬼が極限にまで高まり、いつ彼が裏切るのかとはらはらし通しで息がつまりそう。2人の後ろ姿が煙の中に消えていくシーンで、やっと一息つけた。