こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ウルフマン

otello2010-02-20

ウルフマン The Wolfman


ポイント ★★*
監督 ジョー・ジョンストン
出演 ベニチオ・デル・トロ/アンソニー・ホプキンス/エミリー・ブラント/ヒューゴ・ウィーヴィング
ナンバー 41
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


林の中を高速で走り回る黒い影、鋭い爪にえぐられた内蔵、そして闇を切り裂く絶叫。人間に戻った男が良心の痛みに耐える姿がせつない。殺戮の記憶はないのに、血ぬられた手や衣服が自らの行為を物語り、強烈な自己嫌悪と罪悪感にさいなまれる。そんな呪われた主人公の懊悩をベニチオ・デル・トロが苦み走った表情で演じる。対照的に、己の運命を享受し、むしろ狼人間の一面を持つことに否定的ではない父親役・アンソニー・ホプキンスの、知性と共に狂気を秘めたまなざしが不気味だった。


兄嫁・グエンの手紙で故郷に帰ってきたローレンスは、兄の惨殺死体を検分する。満月の夜、村人に混じって犯人捜しをするローレンスは、狼人間に噛まれ体調を崩すが短期間で完治し、体に不思議な力が宿っていると感じる。そこに、事件の捜査をする警部がロンドンからやってくる。


ここで描かれる狼人間の外見は比較的オーソドックス。特に顔は獣的なパーツより人間的な要素の方が濃い。色彩を抑えた暗欝な映像のトーンが、寒々としたローレンスの心情を象徴しているようだった。その後の、逮捕されたローレンスを妄想の固まりと決めつける科学者が、学会で自説を発表するシーンには戦慄が走る。集まった学者の前で椅子に縛りつけられたローレンスが狼人間に変身し、縛めをぶち切って学者たちを襲うのだが、長く尖った爪で背骨を断ち胸を貫き首をはねる残酷な場面の連続は血なまぐささの中にもシャープさとクールさが漂っていた。


一度狼人間になると人の心がまったくなくなり、ただ血をすすり肉を食らう獣に堕してしまい、相手が妻や息子であっても襲撃の手を緩めない。そのあたり、自分を許せない一方でグエンに恋した気持ちは抑えきれないローレンスのアイデンティティクライシスと、グエンの苦悩や葛藤をもっと深く掘り下げれていれば、物語に奥行きが出たはずだ。まあ、舞台となった19世紀末英国ではまだそれほど複雑な心理学的概念はなかったのだろう、そういう意味では時代に忠実なのかもしれないが。。。