こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スナイパー

otello2010-03-09

スナイパー 神鎗手


ポイント ★★★
監督 ダンテ・ラム
出演 リッチー・レン/エディソン・チャン/ホアン・シャオミン
ナンバー 54
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


風を読み、重力を計算に入れ、湿度を考慮して照準を合わせる。呼吸を整え心臓の鼓動を抑え、ターゲットの動きが止まるまで何時間も姿勢を変えずに引き金を引く瞬間を待つ。スナイパーに必要な資質は冷静さと集中を持続させる強靭な精神力とチームとして行動する際の協調性。物語は、射撃は一番ながら独断専行の男と、警察の狙撃部隊の暗闘を通じて、銃と共にしか生きられない男たちの熱い思いを描く。そこにあるのは暑苦しいまでの男臭さ。闘争心、怒り、友情、後悔、報復といった感情が複雑に絡み合い、飛び交う銃弾がその気持ちを昇華していく。


制服警官のOJは射撃の才能を買われて狙撃隊に異動、フォン隊長の指導のもとメキメキ腕を上げる。そんな時、フォンの元部下で過失致死で服役していたリンが出所し、リンはフォンが長年追っていたギャングのボスの救出に手を貸す。


すべてを失ったリンには、もはや神業的な射撃術しか残されていない。自分を裏切ったフォンへの憎しみだけが彼を支えている。護送車を襲うギャングの手下を援護するが、高い塔の上から警官の足を撃ち、駆け付けたフォンの拳銃を撃ち落とす。正確無比な銃撃とロープを使って何食わぬ顔で逃走するシーンは非常にクールでスタイリッシュ。他にも手すりも何もないつり橋の梁からOJが目標までの距離を目測する場面など、とんでもない高所で何気ないカットを撮るさりげなさと、男のカッコよさだけに焦点を当てた映像は、香港映画ならではの洗練を感じさせる。


やがてリンはフォンと彼の狙撃部隊に挑戦状を送る。たったひとりで戦うリン、彼との因縁に決着をつけようとするフォン、リンを倒して名を上げようとするOJという3人の思惑が狭い空間に交錯する。フォンは、OJにリンを仕留めさせるために自ら囮となり、リンの銃口の前に体を投げ出す。それは、リンに復讐を遂げさせることで、彼に対しても倒す前にきちんと彼の面子を立ててやるという、フォンの贖罪。中国人の精神の根底に流れる義侠心が見事にシンボライズされた現代の武侠映画だった。