こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アーマード 武装地帯

otello2010-04-02

アーマード 武装地帯 ARMORED


ポイント ★★*
監督 ニムロッド・アーントル
出演 マット・ディロン/ジャン・レノ/ローレンス・フィッシュバーン/アマウリー・ノラスコ/マイロ・ヴィンティミリア
ナンバー 78
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


いかにもミリタリー崩れといった風情の荒くれ男たちは、その任務の性格から同僚を家族同然に扱い信頼を深めている。それは、堅牢な装甲を施した輸送車で毎日大量の高額紙幣を運ぶ彼らがギャングの襲撃を備えているから。命がけだからこそチームワークを大切にし、仕事に誇りを持っている。そんな男たちが立てた現金強奪プランは些細な失敗で崩れていく。武骨な輸送車、使われなくなった工場、杜撰な計画、重低音が腹に響くサウンドデザイン・・・。映画はB級のにおいを強烈に放ちながらも、良心と友情の狭間で葛藤する主人公の姿を描く。


イラク帰還兵のタイは警備会社に就職、現金輸送員になる。5人のクルーと親交を深めていくが、ある日輸送中の大金を事故に見せかけて盗む計画に誘われる。誰も傷つけないという条件で参加するが、仲間の一人がホームレスを射殺してしまい、タイは輸送車に籠城する。


派手な銃撃戦におもねらず、心理戦の趣を残すことで、男たちの苦悩を浮き彫りにする。あくまでカネに固執する者、人殺しにはなりたくないと考える者、それぞれが死体というリアルな現実の前に、札束を手にした後の夢が打ち砕かれていく。唯一タイだけが犯行を中止しようとするが、彼もまた世話になった先輩を裏切ることに戸惑いを抑えきれない。残った5人の中にも、予定になかった殺人に動揺し、タイに同調する者が出る。このあたり、欲望と良識の板挟みになる感情が非常に繊細に描かれている。


特にパーマーという男は、タイを屋上に追いつめ銃口を彼に向けつつも、タイに説得され結局何もできずに自ら命を絶つ。それは犯罪に手を染めても血を見るのを忌避し、さらに現場に駆け付けた警官を命がけで助けようとするタイの正義感に己の価値観の卑俗さを思い知ったからだろう。わずかに残ったプライドがこれ以上悪事に加担するのを拒み、かつタイを救うという行動に走らせたのだ。100%の悪党になりきれない男たちの弱さが、逆に人間的な魅力を醸し出す作品だった。