こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アリス・イン・ワンダーランド

otello2010-04-21

アリス・イン・ワンダーランド ALICE IN WONDERLAND

ポイント ★★*
監督 ティム・バートン
出演 ミア・ワシコウスカ/ジョニー・デップ/ヘレナ・ボナム=カーター/アン・ハサウェイ
ナンバー 94
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ねじれた巨木、生い茂る蔓や雑草、打ち捨てられた庭園etc. 忘れら去られたかのごとく荒廃し、どこか不気味さの漂う風景は、まさにティム・バートンが得意とする人間の心の歪みの具現化。悪党にも憎めないところがあり善人にも変な癖があり、そこに生きる動物や人々も、歯車が一つずつずれていて価値観がかみ合わない。物語は、まるで飛び出す絵本が動き出すようなファンタジックな空間に迷い込んだヒロインが、自らの使命に目覚め運命を切り開いていく勇気を得る過程で、世間の常識などいかに陳腐かと笑い飛ばしているようだ。物事の判断基準は人それぞれ、大切なのは何をしたいか、何をすべきかを自分で決めることなのだ。


婚約パーティのさなか、アリスは白ウサギを追って穴に落ちる。そこは赤の女王が統治する恐怖に支配された国。アリスは救世主として年代記に予言されていた。


アリスは赤の女王に恨みを持つハッターとともに赤の女王の城に行ったり、平和のシンボル的な白の女王に助力したりと忙しい。その間、笑う猫や芋虫、トランプの軍隊といったおなじみ登場人物とも出会う。ここは13年前にアリスの夢が作った世界で、彼女がその記憶に戻ってきたという設定通り理路整然とは程遠く、あまりの不条理にアリス本人も夢の中という自覚を持っている。つまり描かれているアリスの冒険譚は、親の選んだ相手と結婚させられるかもしれない現実からの逃避であり、たとえ年代記に記されていても、良い未来は労せずに手に入るのではなく、戦って勝ち取っていくものという教訓。きっとこの年代記は、まだ自由だった6歳のころのアリスの願望だったのだろう。


結局これはアリスが半覚醒状態で見た夢なのだ。6歳のアリスならその夢に圧倒されるばかりだが、19歳のアリスは夢が深層心理の表出であると知っている。夢にいちいち意味を見出すのも可能だが、アリスの勝利は、他人の言いなりにはなりたくない彼女自身が導いたのだ。しかし、素材や舞台をそのままにオリジナルストーリーを構築するのならば、エピソードの羅列ではなく、それこそ夢を紡ぎだす展開にしてほしかった。