こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

オーケストラ!

otello2010-04-23

オーケストラ! Le Concert


ポイント ★★*
監督 ラデュ・ミヘイレアニュ
出演 アレクセイ・グシュコブ/メラニー・ロラン/フランソワ・ベルレアン
ナンバー 97
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


オーケストラの練習を客席から見守りながら、指揮者になったつもりでメロディに酔う男。かつてこの楽団の指揮者だったにも関わらず、反政府的言動で職を奪われ不遇をかこっている彼が大芝居を打つ。カメラは、老齢に差し掛かった主人公の、もう一度人生に立ち向かう過程をコミカルに追う。失った時間は取り戻せないけれど、チャンスを見極め、仲間を集め、ためらわず実行する。そんなありきたりなオッサンたちの再生物語に若く美しい演奏家を絡め、映画はコメディとミステリーの鮮やかな融合を見せる。


ボリショイ楽団の清掃人・アンドレイは支配人あてに来たパリからのコンサートの依頼書を盗み、自分でパリに行く計画を立てる。友人のサーシャと共産党員のイヴァンに声をかけ、散りぢりになっていたメンバー集めに奔走する一方、売れっ子若手女性バイオリニスト・アンヌ=マリーを共演に指名する。


元楽団員たちは細々と楽器に触れてはいるが、皆生活に四苦八苦。彼らは資本主義で没落したのではなく、ソ連時代の指導者に反抗して職を奪われた身ゆえに誰も同情してくれない。だが、いかに経済的困窮状態といっても全体練習をまったくしないのはいかがなものか。パリ到着後は、アンドレイとサーシャを残して他の楽団員はみな勝手に姿を消し、アンヌ=マリーを交えたリハーサルもさぼる始末だ。パスポートの偽造などは笑って済まされても、音楽がテーマの作品で音楽に対するやる気のなさは、笑えないどころかしらけるだけだ。皆がひとつの目標に向かって心を合わせるディテールを描いてこそ “音楽映画”のはずではないか。「のだめ前編」の即席楽団でももっとまじめに取り組んでいたぞ。


それでもアンヌ=マリーの出生の秘密とアンドレイたちとの因縁、共産党復権を夢見るイヴァンの執念といったサイドストーリーを巧みにからませる構成は見事。予想通りの大団円に少し悲しい過去、30年前に始まった運命のいたずらがチャイコフスキーのダイナミックな旋律に乗って壮大な叙事詩のように紡ぎあわされ、清涼な後味を残す。