こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

座頭市 THE LAST

otello2010-05-31

座頭市 THE LAST


ポイント ★★
監督 阪本順治
出演 香取慎吾/石原さとみ/反町隆史/倍賞千恵子/仲代達矢
ナンバー 130
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


宴の準備で大勢の使用人が忙しく立ち働く屋敷の空気が、親分の登場で一瞬にして凍りつく。歩いているだけなのにスクリーンに映る他のキャラクターが卑小に思えてしまう仲代達矢の圧倒的な存在感は、この映画の主人公がいったい誰なのかを忘れさせてしまう。さらに、敵対する組織の親分を前にした魚の刺身についての口上は、大見得を切るように恐ろしく芝居がかっていて、壮大な物語が待ち受けているような期待を抱かせる。しかし、残念ながら仲代に対抗しうるほど印象に残った出演者は民間医に扮した原田芳雄のみで、平板な描き方のエピソードの連続には退屈を禁じえなかった。


妻を殺された後、故郷の半農半漁の村へ戻った盲目の刺客・市は百姓の柳司のもとに身を寄せる。折しも村の支配権は島地組から天道組に移り、理不尽な取り立てに村民が苦しんでいた。市は柳司の借金を返すために賭場に出かける。


田んぼのあぜ道、海岸の小屋、村民の長屋、天道の屋敷など、背景となるセットや小道具には非常に手間がかかっていて、本物のようなたたずまいだ。だが、市を演じた香取信吾には哀しみを背負った凄みというものがなく、ただ盲目のフリをしているようにしか見えないのが致命的。柳司役の反町隆史も百姓の持つしたたかさやセコさがなく、生活感が出ていない。このいかにも大衆に媚びたキャスティングでは坂本順治もお手上げだったのだろうか、演出にキレはなく間延びしたシーンが重ねられるばかり。スピード感やダイナミックさは映像からは微塵も感じられなかった。


◆以下 結末に触れています◆


やがて、柳司たち村民は血判付告発状を役人に届ける役目を市に頼み、それを察した天道一味との大立ち回りになる。ところが、別々の道を行ったはずの市と柳司がいつの間にか合流していたり、天道の子分が役人を切り殺したりと、もはやこのあたりでは構成が破綻していて、整理しきれない混乱に陥っていく。せめて市が妻を殺した男に対する憎悪をむき出しにしていれば、もう少し違った印象になったと思うのだが。。。