こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

告白

otello2010-06-07

告白

ポイント ★★★★
監督 中島哲也
出演 松たか子/岡田将生/木村佳乃/
ナンバー 137
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ブルーを基調にした無機質なトーンは人間の心の闇を象徴し、「罪を憎んで人を憎まず」の建前を徹底的に否定する。少年法によって罪に問われない年齢の少年であっても確実に邪悪の芽を成長させ、ちっぽけな自己顕示欲を満足させるという歪んだ理由で確信犯で他人を殺そうとする。様々な角度から撮影された短いカットを積み重ね、強調と省略、アップを遠景など、あらゆる表現術を駆使して心理的リアリティを追求した映像は衝撃に満ち、一瞬も気の緩みを許さない緊張感を孕む。その強烈な磁力は、すでに原作を読んで物語を知っているものでさえスクリーンにくぎ付けにするほど圧倒的だ。


1年B組の担任・森口は終業式の日に事故死した自分の娘が「このクラスの生徒A・Bに殺された」と告白。犯人の生徒2人にHIV血液入りの牛乳を飲ませ、命の重さを考えさせようとする。4月になるとAはいじめにあうようになり、Bは登校拒否になる。


ナイーブな大人たちに比べて、中学生たちは恐ろしく狡猾で底意地が悪く無責任で残酷。知識だけは貪欲に吸収するが、まだ他者の痛みを実感できるほど成熟していないがゆえ平気で人を傷つける。一方で己が被害者にならないために巧妙に立ち回る。中学生のそんな一面にだけスポットを当てることで寒々とした雰囲気は悪寒を催すまでに凝縮されていく。さらに告白が続くにつれ森口の復讐譚に軸足を移す展開は、いかに人を殺すかのテクニックを競っているかのようなブラックな色彩まで帯びてくる。それはもはや並みのホラー映画を凌駕する生理的感覚を伴った恐怖となって見る者に迫ってくる。


◆以下 結末に触れています◆


やがて成績優秀なAは新たに犯行を計画し、実行に移そうとする。しかし、彼の言動は理屈っぽいな半面、「な〜んてね」とごまかしてしまう浅はかさを伴う。彼にとって人生とは真剣に対峙するに値しない冗談のようなものなのだろう。ところが、映画はその原因を母親への愛憎半ばする複雑な感情だけに押しつけず、もっと純粋な「悪意」に根源を求める。Aを追い詰めた森口もまた最後に「な〜んてね」と言ってすべてを茶化してしまうが、この現実感の希薄さこそが愛や正義といった言葉のウソ臭い本質を言い当てているようだった。