こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ねこタクシー

otello2010-06-27

ねこタクシー


ポイント ★★*
監督 亀井亨
出演 カンニング竹山/鶴田真由/山下リオ/芦名星/室井滋/内藤剛志
ナンバー 153
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自分が傷つきたくないから他人を恐れている。そのままではダメなのも分かっている。でも、その一歩を踏み出すための背中を押してくれるようなきっかけがない。家庭では妻娘に愛想を尽かされ、職場でもうだつが上がらない、教師を辞めてしかたなくタクシー運転手になった男が、守るべき対象が現れると人が変ったように周囲とかかわりあいを持ちはじめる。負け組に甘んじていた主人公が人生に積極的に立ち向かい、不器用ながらもあきらめず、一生懸命に目標を目指す過程は思わず応援したくなる。


万年売上最下位の運転手・勤は公園で弁当を食べていると「御子神」と名札の付いた猫を見つける。御子神を家に連れて帰り餌を与え、勤務中もタクシー乗せて面倒をみるうちに、勤の車は「ねこタクシー」として乗客から好評を得る。しかし、同僚の仁美が真似をして雑誌に取り上げられたせいで保健所から警告を受ける。


勤は、猫を自宅に持ち帰ると、妻に嫌がられ理詰めで反対される。そこで勤は猫を飼いたいという強い意志と責任感を見せる。毅然とした勤を見て娘は理解を示し、それまで彼を見下していた彼女が初めて「父」としての勤に尊敬の念を抱く。人の顔色をうかがってばかりの父がやっと前向きで正直な胸中を見せ、猫をきっかけにふたりは絆を取り戻していく。無関心を装っていても子供は親をちゃんと観察しているのだ。映画は濃やかな親子の感情をとらえて、父親の立ち位置と家族の在り方をきちんと描きこむ。このあたりの設定は類型的ではあるが普遍的な父娘関係だが、心が徐々に通っていく様子がうまく処理されている。


◆以下 結末に触れています◆


勤は「ねこタクシー」の認可を得るために通信教育で勉強し、その間仕事にも精を出す。妻子に夢を語るだけでなく、それを実践して彼自身の生き方を見せることで愛情を示していくプロセスはほのぼのとしたホームドラマの趣があり、その結果としてもう一度教職への復帰を目指すという勤自身の再生の物語は小さな勇気を与えてくれる。何よりカンニング竹山が不細工な顔で必死に夢を訴え努力する姿が素晴らしかった。