こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

冬の小鳥

otello2010-07-23

冬の小鳥 Une vie toute neuve

ポイント ★★★*
監督 ウニー・ルコント
出演 キム・セロン/パク・ドヨン/コ・アソン/パク・ミョンシン/ソル・ギョング
ナンバー 170
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


新しい服と靴を買ってもらい、焼肉を一緒に食べ、ケーキを選んでくれた大好きなお父さん。今ではもう、顔を思い出せないくらい遠い思い出になってしまったのに、自転車の後部座席に乗せてもらった時の背中の温もりはハッキリと覚えている。孤児院に置き去りにされた9歳の少女が、頑なに父が迎えにきてくれると信じている姿がいじらしく切ない。映画は、子供の想いをそのまま切り取るだけで、大人が持つ感情を押し付けようとはしない。だが、傷ついた彼女が現実を受け入れていく様子を散文的に描写する映像は、張りつめたトーンに満ちている。


キリスト教系の孤児院に入所したジニは、スッキという友達ができて徐々にそこでの生活に馴染んでいく。屋根の上で死にかけていた小鳥を見つけた2人は密かに飼いはじめたりするうちに、ひとりまたひとりと仲間たちが外国人の里親にもらわれていく。


教会のミサで神父が「父よ、なぜ見捨てたもうた」というイエスのことばを口にするが、それはジニがおかれた現状と同じ。しかしわが事とは認識していないジニの表情が、大人の目線から見ると非常に痛ましい。一方、年かさで足の悪いイェシンになかなか里親が見つからないのを知っているスッキは、少しでもよい家庭に引き取ってもらおうために己のの“商品価値”を高めよう英語で挨拶したりする。一度親に見捨てられているだけに、人生が里親の人柄や経済力に左右されるのを幼い頭で計算し、答えを出している。11歳でそんな大人びた打算をするスッキが哀れだった。


◆以下 結末に触れています◆


やがて、一緒に里子にいこうと約束していたスッキがひとり孤児院をでたり、覚えていた住所にもう父は住んでいないと教えられたジニは、だれにも愛されない無価値な人間と思い込み、自らを墓に埋める。親友と父の裏切り、まるで心を殺して悲しみに対して不感症になり、なんとか自分を守ろうとしているかのようだ。それでも父に愛された記憶はふとした瞬間に蘇る、そんな優しさにあふれた飛行機のシーンに彼女の未来を予感させ、温かい気持ちにさせてくれる作品だった。