こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士

otello2010-07-26

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士

ポイント ★★★★
監督 ダニエル・アルフレッドソン
出演 ノオミ・ラパス/ミカエル・ニクヴィスト/レナ・エンドレ
ナンバー 178
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


精神病院で手足を縛められ、「無能力者」のレッテルを張られたヒロイン。彼女を社会から抹殺しようとする男たちは、統合失調症として片付ける。その虐げられた胸に宿る復讐の炎に気づかぬ者は大やけどをし、明晰な頭脳をみくびる者は罠にはまる。さらに恐れを知らぬ勇敢さはどんな屈強な男でもぶちのめしてしまう。鼻ピアスにパンクファッション、髪を逆立てて法廷に現れる雄姿は、あらゆる権威・権力に対する抵抗。反面、今回はハッカーの友人や弁護士、そしてジャーナリストや医者など、味方をしてくれるものには少しだけ胸襟を開くという成長も垣間見せる。


ザラに大けがをさせられたところをミカエルに救われたリスベットは入院、そこで自伝を書き始める。一方、ザラの存在が邪魔になった秘密組織はザラを射殺する。同時に事件の真相に迫りつつあるミカエルたちにも組織の魔手が伸び、ミカエルは公安警察と手を組む。


病院・拘置所と動きを封じられたリスベットの代わりに、ミカエルたちがターゲットの尾行・張り込みを行う。秘密組織はスキャンダル封じのためより暴力的な手段に訴える。言論の自由の危機、機密の暴露、物語はもはや国家レベルの陰謀と闘う個人と数人の編集部という構図になっていく。並行する法廷での緊張感あふれるやり取りで、徹底してリスベットを貶め保身に走る精神科医の狡猾さに、リスベットの反社会的風貌こそが正義に見えてくる。


◆以下 結末に触れています◆


すべての巨悪を破滅に追い込んだ後、リスベットは大男との決着を付ける。それは己の体に流れる呪われた血への訣別であり、過去という軛から解放された瞬間でもある。ラスト、ミカエルに言いにくそうにお礼の言葉を口にするリスベット。自分のために命がけで戦ってくれる人々がいることを知って人間らしい心を取り戻した姿に、初めて美しさを感じた。映画は、父親にガソリンをかけて火を付けたり後見人にレイプされるといった1作目の出来事が見事に伏線となって生かされている上、丁寧にエピソードを積み重ねて膨大な情報量を交通整理する構成。まさにミステリーの手本といえる作品だった。