こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ルイーサ LUISA

otello2010-07-29

ルイーサ LUISA


ポイント ★★★
監督 ゴンサロ・カルサーダ
出演 レオノール・マンソ/ジャン・ピエール・レゲラス
ナンバー 156
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


毎朝決まった時間に起床し、スキのない服装で職場に赴き、定刻に仕事を終えて家に帰る。できる限り規則正しく、毎日のリズムを狂わせる他人との関わりは務めて避けている。もはや老境にさしかかった女の頑固さはいっそう磨きがかかっている。遠い昔に夫と娘を失って以来その悲しみに自ら虜となり、人生を死んだように生きてきた日常が崩されたとき、彼女はもう一度世界と対峙しなければならなくなる。そんな、生活とはカネを稼ぐことという現実につきあたったヒロインがどん底から再生していく姿を描く。


霊園の電話受付と女優の家政婦をとして生計を立てているルイーサは、飼い猫が死んだ日に二つの職を失う。退職金も貯金もない彼女は、猫の火葬費用を作るために地下鉄でインチキ商売を始める。


思っていたほど世の中は甘くなく、ルイーサは日々の糧にも事欠きアパートの電気も止められる。一時悲観的にもなるが、立ち止まって考えているより前に進む彼女の開き直りが映画のトーンをポジティブなものに変える。誰も守ってくれないなら、自分から世間に働きかけるしかない状況に追い込まれたからなのだが、その時もともと彼女の胸の奥に眠っていた“世渡り上手”の回路がつながったのだろう。ルイーサの変身ぶりをレオノール・マンソは感情の抑制がきいた表情で演じ、鋭い瞳の輝きは未来への希望を取り戻していく過程を見事に表現している。


◆以下 結末に触れています◆


やがて身障者を装って物乞いをすると予想以上に小銭の実入りがいいと知ったルイーサは、盲人のふりをして地下鉄の通路で空き缶を振り、そこでオラシオという隻脚の男と行動を共にするようになる。ひとりよりはふたり、さらにアパートの管理人・ホセにも胸襟を開くと、彼女の運命は徐々に上向く。それは金銭的な余裕を得る以上に、困っているときに人の善意に頼るのは少しも恥ずかしくないことを彼女を通じて見る者に訴えているのだ。人間同士の付き合いは煩わしい部分もあるが、それでも心の内を聞いてもらえるだけでも気持ちが晴れる、そんな優しさに満ちた作品だった。