こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スプリング・フィーバー

otello2010-09-04

スプリング・フィーバー

ポイント ★★*
監督 ロウ・イエ
出演 チン・ハオ/チェン・スーチョン/タン・ジュオ/ウー・ウェイ/ジャン・ジャーチー
ナンバー 208
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


貪るようにお互いの肉体をまさぐり、たまった欲望を発散させる2人の男。生殖の延長上にある男女の性交とは違い、それはただ相手とつながっていたいと願う純粋な愛だ。しかし、その果てのあるのは底なしの虚無と絶望。それでも主人公はパズルのピースを埋めるごとく次々と恋人を変えていく。もはや現代中国では同性愛がタブーではなくなっているのだろう。ならば妻のいる男や彼女のいる青年を選び、仲のよいカップルの未来を奪って快感を得ているのかもしれない。そんな、良識を踏みにじることでしかアイデンティティを見つけられない男の姿が哀しい。


ワン・ピンの妻は夫の浮気を疑い、探偵のハイタオを雇って調査する。ワン・ピンの愛人はチェンという男、妻は激高しチェンとワン・ピンは破局する。一方で、ハイタオに偶然助けられたチェンは、今度は彼に接近していく。


物質的には満たされていて、社会的にもうまくやっているのにチェンは何かに追われているかのよう。だが、映画はさまざまなメタファーで彼の内面を表現しようとするが、なかなか具体的な像を結ばない。むしろチェンに夫を寝とられた妻の世間体の悪さや怒りのほうが理解できるのだ。チェンの心は彷徨し、どこからきてどこに向かうのか。いや、そもそも出発点も目的地もないのかもしれない。それほど彼の抱える闇は深く、しかもその正体が彼自身にもわかっていない。実体のない苦悩が、彼を男の体に走らせる。生々しい男同士のセックスシーンだけが、チェンの存在証明となっている。


◆以下 結末に触れています◆


やがて、ハイタオもチェンに溺れ、ガールフレンドのリー・ジンを加えた3人で旅に出るが、ぎくしゃくした空気は隠せない。男2人はリー・ジンの気持ちに気づかないばかりか、リー・ジンにキスしているところを見られてしまう。自分のボーイフレンドが男と深い関係にあると知った衝撃。肉欲に沈んでいく男たちの茫洋とした心理とは反対に、女たちが抱く、パートナーがゲイだった時の嫉妬と憎しみと疑問と情けなさの入り混じった運命を呪いたくなるような複雑な感情のみが確かな実態を伴っていた。