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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

裁判長!ここは懲役4年でどうすか

otello2010-09-25

裁判長!ここは懲役4年でどうすか

ポイント ★★★
監督 豊島圭介
出演 設楽統/片瀬那奈/村上航/尾上寛之/鈴木砂羽
ナンバー 228
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人が人を裁く、そこには本来厳粛な空気が流れているはずなのに、主人公が目にした法廷の様子はどこかはかないユーモアとペーソスが漂う。無論、裁判官・検事・被告人・弁護人らはきわめて真面目。ところが、被告が口にするその場しのぎの言い逃れと、ねちねちと理論を重ねて被告を質問攻めにする検事とのかみ合わない攻防の中で、人間の本質をあぶりだしていく過程がB級感たっぷりだ。愚かでせこく自己中な者、誠実な気持ちをうまく表現できない者、残された家族・子分を心配する者と様々。そして癖のある裁判官と検事。彼らもまた人間である以上、喜怒哀楽とともに司法エリートゆえの歪んだ一面を持つ。作品はそうした人間の雑多な営みを赤裸々に再現する。


フリーライターの南波は映画の脚本の取材で地裁で裁判の傍聴を始める。さまざまな人々の人生を覗き見しているうちに仲間ができ、放火で起訴されている少年のえん罪を晴らそうと行動を起こす。


映画の題材になるような劇的な裁判は南波の空想の中にしかなく、ほとんどはあまりにもしょぼい案件ばかり。さらに簡裁では数百円単位の万引きを裁いているなど、もはやこんなことにまで時間と人を割く、つまり税金が使われている事実に却って驚きを感じる。もちろんそれが法治国家の根幹であり、決して否定してはならないのだが。当然、南波の思いはそんな深刻なところまでには及ばず、ひたすら面白いネタを求めて法廷ハシゴするばかり。このあたりの脱力感が絶妙で、事件のトホホ感以上にいい味を出している。


◆以下 結末に触れています◆


やがて南波と彼の仲間たちは放火事件の被告少年を救うために、弁護団や少年の母に働きかけるだけでなく、裁判官・検事の性格や癖まで研究して対策を立てる。これまで安穏と生きてきた南波にとって、それは生まれて初めて他人の人生に真剣に関わる経験。結局、彼らの努力も水泡と消えるが、だからといって南波が“目覚める”というような前向きな終わり方ではなく、だらだらとした雰囲気は変わらない。その「抜き加減」が心地よかった。