こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

君に届け

otello2010-09-27

君に届け


ポイント ★★★*
監督 熊澤尚人
出演 多部未華子/三浦春馬/蓮佛美沙子/桐谷美玲/夏菜/青山はる/金井勇太/富田靖子/ARATA/勝村政信
ナンバー 231
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


うれしいのに苦悶の表情をし、友人を慮る余りかえって傷つけてしまう。誰かの役に立とうと善行を積んでいるのに、親しい友達がいなかったせいでズレたリアクションをしてしまう。そんな、まじめでひたむきなのにどこか調子を外しているヒロインを多部未華子が好演。見かけが暗くて要領が悪くても、自分の気持ちを言葉にしてきちんと伝える努力をすれば、必ず相手に届くことを彼女を通して物語は訴える。いじめられキャラを極めれば逆に周囲に恐れられるという発想がユニークだ。


高校の入学式、爽子は風早と同じクラスになる。爽子はその外見から「3秒以上目を合わせると呪われる」とクラスメートから避けられていたが、彼女が人知れず掃除や花壇の手入れをしているのを知った風早だけは明るく接してくる。そしてふたりはお互いを意識し始める。


爽子が「貞子」とあだ名されるきっかけに始まり、喜びを表現するのに恨みで歪んでいるように眉根を寄せ、肝試しのお化け役を自ら引き受けたりと、本人は真剣なだけに笑えるエピソードが満載。彼女の動機は私心や駆け引きがなくすべて純粋な善意。風早だけでなく千鶴やあやねといった仲間もできるが、そこでも友達づきあいの距離感がつかめずぎくしゃくしたりする。そのあたりの、爽子の「他人を思いやることはできても、他人の心まで思いやることができない不器用さ」が非常にコミカルに処理されていて、劇的な出来事はなくても日常のちょっとした情景をとらえた映像はウイットが効いていて洗練されている。


◆以下 結末に触れています◆


入学式の日に風早が取ってくれた髪に付いた桜の花弁を爽子は大切にしている。それは幸運の徴であり、風早への憧れのシンボル。秋から年末にかけてふたりの思いが接近するのに、またしても爽子は的外れな受け答えで風早に肩透かしをくらわす。ふたりの恋の行方はハッピーエンドと分かっていても、ついつい爽子がまたトンチンカンな対応をするのではとハラハラさせる。この爽子の持つ意外性が、最後まで不思議な幸福感をもたらしてくれた。