こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ソフィアの夜明け

otello2010-09-28

ソフィアの夜明け

ポイント ★★*
監督 カメン・カレフ
出演 フリスト・フリストフ/オヴァネス・ドゥロシャン/サーデット・ウシュル・アクソイ/ニコリナ・ヤンチェヴァ/ハティジェ・アスラン
ナンバー 210
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


社会が悪いのか自分に運がないのか、年の離れた兄弟はやり場のない閉塞感に苛まれ、鬱憤のはけ口を探している。いつも何かにイラ立ち、時に暴力や理不尽な言葉となって周囲の人を傷つける。自由を手に入れて20年、何でもできるのに何をしていいのかわからず、彼らは迷い答えを見つけられない。それは自由を“勝ち取った”世代の兄も、“生まれつき自由”だった弟も同じ。映画はEUに加盟し先進国に仲間入りしようとする現代のブルガリアを舞台に、人生の目標を持てないでいる人々の姿をリアルに再現する。


学校にも行かず不良仲間とつるんでいるゲオルギは、ネオナチグループに入ってトルコ人一家を襲うが、偶然通りかかった兄・イツォに止められる。イツォはトルコ人の娘・ウシュルと仲良くなる一方、ゲオルギの暮らしを確かめるために両親の元に戻る。


イツォは麻薬中毒の治療中で、木工アーティストとしての腕を生かせずにブラブラしている。おそらくゲオルギは兄が自堕落になったのを目の当たりにしていて、勉強しても仕方がないと将来に夢が持てないでいる。国家に服従していれば保護されていた社会主義時代とは違い、己の才覚で生きていかなければならない。不況と経済のグローバル化、時代に取り残された人々の心は荒んでいく。ネオナチに走り、怒りの矛先は暴動という形で顕在化し、政治的に利用しようとする者もあらわれる。この国の深い病巣が明らかにされていく。


◆以下 結末に触れています◆


家に戻ったイツォは特にゲオルギを責めることなく見守っている。ウシュルからは間違った世の中を癒す方法を聞かされる。世間や他人を敵視しても仕方がない、イツォはウシュル一家を救ったのをきっかけに、自ら働きかければ今の状況を改善できると気づいたのだろう。道で出会った老人の荷物をアパートまで運ぶとうたた寝をしている間に老人が赤ちゃんになったり、朝目覚めるとゲオルギの彼女と同衾していたりと、吉兆を暗示する抑制のきいたメタファーが効果的だった。善意とポジティブな考えで運命は変えられる、そんなイツォの変化にわずかな希望が見えた。