十三人の刺客
ポイント ★★★
監督 三池崇史
出演 役所広司/山田孝之/伊勢谷友介/沢村一樹/古田新太/高岡蒼甫/波岡一喜/伊原剛志/松方弘樹/吹石一恵/谷村美月
ナンバー 232
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
バリケードで進路を塞ぎ、橋を落として退路を断つ。囲い込まれて混乱した警護の侍に向かって矢の雨を浴びせ怒り狂った牛を放つ。さらに火がつけられた油や爆弾で10倍以上の数の敵方を迎え撃つ侍たちのゲリラ戦法が痛快かつダイナミック。その後の血と泥にまみれた白兵戦では、刀を振り回すだけでなく斬られても刺されても敵を傷つけようとする執念を見せる。天下太平の時代、実戦の経験などない侍たちが、脅え慄き腰が引けながらも敵の体にめり込んだ刀を抜くシーンが非常に生々しい。人を斬る手ごたえと、太刀を受ける痛みがリアルに伝わってくる。
気に食わぬ者を平気で殺め、暴君の名をほしいままにする明石藩主・松平斉韶。彼の暗殺を命じられた新左衛門は同志を集め、参勤交代時に斉韶を襲撃するする作戦を立てる。新左たちは宿場町を丸ごと買い取って壮大な罠を仕掛け、斉韶一行を待つ。
表情一つ変えず人を突き斬り射殺す斉韶。娘の手足を斬り落としたり、膳の上にぶちまけたご飯や汁ものをほおばる様子はもはや精神異常をきたしているかのよう。その残虐な振る舞いは純粋な“悪”を体現している。知能は高いのに感情はなく、部下は大勢いるのに心を打ち明けられる相手はいない孤独が彼を狂わせたのだろう。そしてそんな主君に仕えることに矛盾を感じながらも忠義の名のもとに命がけで斉韶を守ろうとする侍頭・鬼頭が哀れだ。きっと彼も新左たちのように、磨いた剣術の腕を“正義”のためにふるい、武士としての使命を全うしたかったに違いないのだが、その葛藤を見せないところがクールだ。
◆以下 結末に触れています◆
また、大名行列を追って近道をしようとした新左らは山道で迷うが、そこで山の民と出会う。封建社会のあらゆる束縛を超越した生粋の自由人であるこの男は気まぐれで新左たちの仲間に加わり、刃物の代わりに棍坊や石つぶてを武器に独特の戦い方をする。思いのままに生きるには斉韶のように権力を握るか、山の民のようにアウトサイダーになるしかない。「武士道」などという建前に凝り固まった世界をあざ笑うかのような二人の姿が魅力的だった。