ハーブ&ドロシー HERB & DOROTHY
ポイント ★★*
監督 佐々木芽生
出演
ナンバー 217
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
アーティストとしての才能には恵まれなかったが、アーティストを理解し作品を発見する才能に恵まれた夫婦。40年にわたる彼らのコレクションは膨大で1LDKの壁に所狭しと飾られ、床やベッドの下にまで収納された作品の数は2000点を越える。映画はなぜこれほどまでに彼らがアートに惹かれ、なおかつアーティストたちが彼らに心を許していたのか、その秘密を追う。郵便局員と図書館司書、裕福とはいえない暮らしの中から身の丈にあった値段のものだけを買い集めた彼らの熱意は、ひとつのことを長く続ける大切さを教えてくれる。
アーティストを志していたハーブとドロシーは知り合って1年で結婚、後にコレクターになる。彼らのポリシーは、自分たちの収入で買え、自宅アパートに置けること。収集を始めた60年代はNYポップアートの全盛期、当時はまだ売れていなかった後の大家たちの作品を非常に安く手に入れていた。
買う時は必ず作家の全作品を見ると言うヴォーゲル夫妻。それによってアーティストの経歴を知り、成長を知り、内面を知る。くすぶっているアーティストたちにとっては、彼らに買い取られるのは、たとえ金額は低くても己の人生を肯定された気持ちになっただろう。世間に解釈されないような前衛アートでも、きっとヴォーゲル夫妻なら何らかの意味を見出してくれる、そんな安心感がアーティストの胸に芽生えるのは当然。おそらくヴォーゲル夫妻しか買い手がつかないまま消えていった無名のアーティストたちも数多くいたはず。それでも彼らと出会い、語らい、自らの感性と努力の結晶を評価してもらうことで何らかの達成感を得たに違いない。
◆以下 結末に触れています◆
やがてワシントンDCのナショナルギャラリーへコレクションの寄贈が決まり、学芸員はその多さと保存状態の悪さにあきれかえる。一方で有名になっても質素な生活スタイルは変えない。売ればひと財産できそうな名品の山なのに夫婦は決してカネ儲けにアートを利用しようとしないところに、アートに対する限りない愛情を感じさせてくれた。