こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

死刑台のエレベーター

otello2010-10-12

死刑台のエレベーター

ポイント ★★
監督 緒方明
出演 吉瀬美智子/阿部寛/北川景子/玉山鉄二/平泉成/りょう/笹野高史
ナンバー 243
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ほんのわずかな不注意で完璧と思われた計画がとん挫する。「もう耐えられない、もう離れられない」。狂おしいほどの愛が男を殺人に走らせ、その愛を信じる女は男を待ち続ける。停止したエレベーターという密室の中で募っていく男の焦燥と、男になにかあったのではという心配ともしかしたら裏切られたのではという疑念に苛まれながら街をさまよう女の姿は、対照的であると同時に相似形をなす。ケータイという通信手段にどっぷりと浸かった現代人が、それを失った時に感じる連絡が取れないもどかしさが非常にリアルだ。


医師の時藤は芽衣子の夫を自殺に偽装して殺すが、忘れ物を取りに現場に戻ろうとしてエレベーター内に閉じ込められる。警官の赤木は奪われた拳銃を取り戻すために時藤の車でヤクザを追う。芽衣子はその車の助手席に女が乗っていたのを目撃して時藤に不審を抱き始める。


エレベーターホールの高さを把握するため床扉から火をつけた紙を落とすシーンが美しく象徴的。ゆっくりと落下しながら燃え尽きて時藤に脱出の難しさを示す。しかし、医師がオイル式ライターを持っている、すなわちスモーカーなのは少し引っかかる。いまどき喫煙する医師は患者に信用されないだろう。芽衣子が問い詰める時藤の友人の医師もタバコを吸っていたが、こんな安っぽい小道具を使ったせいで設定自体も安っぽく見えてしまった。また時藤の体に刻まれた傷跡の数々が彼が歩んできた過酷な人生と苦悩を語っているのに、それらを生かすエピソードもないのが残念だ。


◆以下 結末に触れています◆


一方で赤木はヤクザの女が元カノだったことから執拗に彼らを追い、2人とも殺してしまう。このあたりも動機が弱く、「閉塞感にがんじがらめになった若者の暴走」というには説得力がなさすぎる。それにいかに古いビルといえどもいまどきあれほどセキュリティの甘いビルは存在しない。オリジナルに敬意を払うのはよいのだが、舞台を現代に移すのならばもう少しディテールを詰めるべきだった。