こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブロンド少女は過激に美しく

otello2010-10-14

ブロンド少女は過激に美しく
SINGULARIDADES DE UMA RAPARIGA LOURA

ポイント ★★*
監督 マノエル・デ・オリヴェイラ
出演 リカルド・トレパ/カタリナ・ヴァレンシュタイン/ディオゴ・ドリア/ジュリア・ブイセル
ナンバー 245
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


憂いを湛えたまなざしと所在なさげに扇を持つ細く白い手。他者の目を十分に意識している優雅な物腰はたちまち男を虜にする“雪と黄金でできた真っ白な小鳩”。窓越しに見つめるだけだったその美しい娘を手に入れるために、主人公は貧乏とどん底を経験し、そこから這い上がろうと勤勉に働く。映画はどっしりと据えたカメラが浮き彫りにする人生の真実を、貴族趣味を背景にあくまでもしっとりとした質感で描く。たまたま列車で隣に座った赤の他人だからこそできる「打ち明け話」の体裁が物語にアクセントを持たせ、おとぎ話のような雰囲気を醸し出す。


叔父の店で会計士をするマカリオは、通りの反対側の窓辺に佇む金髪の若い娘・ルイザに心奪われる。伝手を頼ってパーティで紹介してもらい、母親の同意を得た上で交際を始めるが、叔父に結婚の許可を求めると突然仕事をクビになってしまう。


いい歳をした男がおそらく10歳以上年下と推定される娘に恋をし、会えない辛さに身を焦がす。一応の分別はあるが、なんとか彼女の心をつかもうとするマカリオの必死な姿が切なくも滑稽だ。また、独身の娘が母親と共に行動し、声をかけるのにもきちんとした仲介者がいないと事が進まないという21世紀とは思えない習慣は、驚きつつも懐かしさがこみ上げる。ポルトガルではいまだにこれほど身もちの固い女性がいるのか、それともこれはオリベイラ監督の幻想なのか。


◆以下 結末に触れています◆


その後、「塞翁が馬」的な紆余曲折を経て、マカリオはルイザとの結婚を認められる。そして予期せぬところで知ったルイザの本性とマカリオの失望。前半、ルイザ母娘が叔父の店に買い物に来た後、「150ユーロのハンカチがなくなった」と叔父がマカリオに呟くが、ハンカチを万引きしたのもルイザだったのだろう。それに気付いていたから叔父は結婚に反対したのかもしれない。こんな「手癖の悪い娘にいれあげて恥をかいた」体験、誰かに聴いてもらいたいけれど身内や友人には絶対に知られたくない気持ちはよく理解できる。たっぷりと余韻が取られた映像に、しばしの間さまざまな想像が脳裏を駆けめくった。