こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クレアモントホテル 

otello2010-10-16

クレアモントホテル MRS. PALFREY AT THE CLAREMONT

ポイント ★★★
監督 ダン・アイアランド
出演 ジョーン・プロウライト/ルパート・フレンド/ゾーイ・タッパー/アンナ・マッセイ/ロバート・ラング/マルシア・ウォーレン
ナンバー 246
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人生の終わりが近づいてきた老婆と、まだ人生が余白だらけの若者。偶然の出会いがふたりを引き寄せ、お互いがなくてはならない存在になっていく。男女の愛ではなく人間同士の触れ合い。寂しい心を埋め、落ち込んだ気持ちを慰めてくれる人がなによりも大切であることを物語は教えてくれる。ホテルの電話はダイヤル式、小説を書くのはタイプライター、ハイテク機器や最新の流行が一切出てこない古い街並みを背景にしたこの映画、「SATC」やDVDショップが出てこなければ20世紀の出来事と錯覚してしまうほど時間の流れから取り残されている。それらは世間から隔絶された老人や社会との接点が乏しい青年の現状を明示しているようだ。


ロンドンの長期滞在者向けホテルにチェックインしたサラ。そこに投宿しているのはみな癖のある老人ばかりで面喰う。ある日、通りで転んでケガをしたところを作家志望のルードに手当てしてもらい、孫からの連絡を待ちわびていたサラは、ルードに孫の代役を頼む。


食事時の宿泊客の、無関心を装いつつも興味津津な様子がいかにも節度を重んじる英国人らしい。新入りのサラを常に動向をチェックし、訪れたルードには露骨に好奇心を示す。そんな反応がいかにも人間くさくて楽しめる。一方のサラは、さわやかな外見のルードと一緒にいるところを他の客にひけらかす態度を取り、突然訪ねてきた孫を追い返す始末。肉親なのに気を使い、他人だから甘えられる。「人生は出会いと別れ」というが、その中で適度な距離感を保つ難しさがサラの抱える問題を通じて浮かび上がってくる。


◆以下 結末に触れています◆


サラはルードに亡夫の面影を見たのは理解できるが、ルードは何を思ってサラに近付いたのか。もちろん小説の題材だが、それ以上の感情を持っているのは確か。しかし、折り合いの悪かった母親の代わりにしてはサラは歳を取り過ぎているし、恋人もきちんと別にいる。若いころの夫に似たルードに自分を覚えおいてほしい、もしかしてこれはサラの「こんな最期を迎えたい」という夢だったのだろうか。。。