こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

うまれる

otello2010-10-21

うまれる

ポイント ★★*
監督 豪田トモ
出演
ナンバー 247
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


たとえ不治の障害を持って生まれてくるとわかっていても受け入れる夫婦、死産の現実と立ち向かう夫婦、母に愛されず育った自分が母親になる資格があるのかと悩みながら初めての出産に臨む妊婦。命とは、生まれたときではなく母の子宮で生を授かった時から始まる、数組の夫婦が胎児に注ぐ愛情はそんな思いを強く印象付ける。ここで語られるのはあくまで親の側からの、生まれてきたことへの感謝、生命の誕生という神秘が体内で起きている不思議と感動、そして親になる責任感と覚悟だ。たいていの女性が出産を通じて見事に変身するのはこれほどの奇跡を経験するからなのかと得心した。


妊娠6カ月目のまどかは夫の協力で健康的な妊婦生活を送っているが、少女時代母から受けた虐待が原因で母親としての自信が持てない。妊娠8カ月目で遺伝子異常が見つかった胎児を産む決心をした直子と夫は、生まれた赤ちゃんを懸命に育てる。麻紀は、出産予定日に突然心音が消え死んでしまった赤ちゃんを産む。


特に感慨深いのは、死産だった麻紀夫婦の子供に対する愛情の強さだ。生まれた日が命日という悲劇に見舞われながら、産声を上げない赤ちゃんに産着を着せて夫婦で記念写真を撮る。「お腹で9カ月過ごしてくれてありがとうの気持ちいっぱい」と己を納得させ、この悲しみを乗り越えようとしているのだろう。本当は胸が張り裂けそうなくらいなのに必死でこらえて笑顔をつくる彼女の姿が痛ましかった。


◆以下 結末に触れています◆


ただ、某宗教団体のプロパガンダ映画のような冒頭のCGと胎内記憶を語る幼児のシーンは少し首をかしげる。これはもしかしてスピリチュアルな世界を描いたトンデモ映画かと思ってしまった。出産コーディネーターが“ファンタジー”と否定しているからよいが、せっかくディレクターが時間をかけて妊婦夫妻の内面までカメラで深く切り込んで出産という事象を客観的に見つめているのに、不確定な非科学的要素を持ち込むのはマイナスではないだろうか。。。