黒く濁る村
ポイント ★★★
監督 カン・ウソク
出演 チョン・ジェヨン/パク・ヘイル/ユ・ジュンサン/ユ・ヘジン/ユ・ソン/キム・サンホ/キム・ジュンベ/ホ・ジュノ
ナンバー 240
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
父の急死、村人の不自然な振る舞い、監視の目、迫りくる暴力。人里離れた小さな集落にやってきた都会の青年は、奇妙な絆で結びついた人々の反応に戸惑いながら、父の死の真相とこの村に隠された秘密を探っていく。謎が謎を呼び、死が死をいざなう構成はダイナミックで、アップの多用と感情を刺激する音楽が毒を含んだ空気を演出する。そして過去に埋もれたヒントが現在に蘇り、封印された記憶がこじ開けられる。映画はミステリーの体裁を取りつつ人間の業の深さを抉り出し、その悪意と怨念は一度足を踏み入れると抜け出せない底なしの泥沼のようだ。
長年音信不通だった父の訃報で山奥の村を訪れたヘグクは死因に不審を持つ。さらに父の財産を調べると、すべて村長の名義に書き換えられていた。ヘグクは村で唯一の女性・ヨジンの元に身を寄せ独自に調査するとともに、知人の検事にも村長の経歴を洗わせる。
聖人なのかサタンなのか。ヘグクの父・ユ氏は村民だけでなく、襲いかかる囚人や彼を逮捕したチョン刑事の心まで動かし、救済を説く。彼の相手の思考を見透かすような瞳に見つめられると誰もが催眠術にかかったようになるが、ひとりチョン刑事だけはギリギリのところで自己を守っている。30年前のエピソードから始まるプロローグ、ユ氏の圧倒的な存在感が物語全体を引きしめる。
◆以下 結末に触れています◆
やがて村長の悪行の数々が検事によって暴かれるが、はがされたのは真実の表層だけで、「人間の心の闇」という肝心の部分は曖昧なまま。中でも最大の疑問はヘグクの母親は誰かということ。30年前にレイプされたヨジンが産みの母で、ユ氏は自分とヨジンの関係をもみ消すためにチンピラに彼女をレイプさせたのではないのか。そしてもみ消し工作をチョン刑事に頼んだからこそユ氏は彼に頭が上がらず、いいなりになって村で軟禁されていたのだろう。ラストでヨジンがヘグクに伝えた言葉が、ヨジンをレイプした犯人がユ氏だった事実を示唆していた。描かれている内容以上に想像が膨らみ、さまざまな解釈が成り立つ、そんな魅力にあふれた作品だった。