こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カウントダウンZERO

otello2010-10-26

カウントダウンZERO COUNTDOWN TO ZERO


ポイント ★★*
監督 ルーシー・ウォーカー
出演
ナンバー 252
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


東西冷戦の終焉で核戦争の懸念は去ったのに、21世紀になって新たな問題が持ち上がっている。それは核兵器がテロリストの手にわたること。かつては米ソ両陣営の核兵器が全面戦争を回避する“抑止力”として機能していたが、テロリストたちは使用が前提で交渉の余地はない。映画は、オッペンハイマー博士に始まる原爆の歴史、旧ソ連諸国の杜撰な核管理とパキスタン北朝鮮によってカジュアル化された核兵器を取り巻く環境を追って、歴史上類を見ないほどの核の脅威にさらされている「現在」の危うさを訴える。事故・誤算・狂気。このうちどれか一つでも暴走すれば確実に破滅が待っている、元首脳クラスから工作員まで、そんな緊張感に満ちたインタビューの数々は非常に見ごたえがある。


第二次大戦中に開発された原子爆弾ソ連崩壊後は工場労働者でさえ簡単に濃縮ウランを盗みだせるほど緩いセキュリティと、カーン博士の暗躍でパキスタンですら保有できるまでになる。そして核テロを未然に防ぐための手立ても後手後手に回っている。


畳みかける映像と不安をあおる音楽は、いままさに核兵器を使ったテロが起きんとしている強迫観念のよう。いざという時には自爆も辞さないアルカイダ系テロリストにとっては、持っていると思わせるだけで米国をはじめとする先進諸国を震え上がらせることができ、同様の効果を北朝鮮も狙っている。「サダムが破れたのは核弾頭を持っていなかったから」という言葉はキム・ジョンイルの背中を押すには十分すぎる効果を持ったはずだ。


◆以下 結末に触れています◆


ところが、後半は20世紀核危機のおさらいに終始する。もちろん「今」を理解するために「過去」を知るのは重要だが、似たようなアーカイブ映像が何度も公開されているので新鮮味はない。どうせならカーン博士の闇ルートを徹底的に追うとか、もっとポイントを絞り深く掘り下げてほしかった。この作品はオバマ大統領の「核なき世界をめざす」プラハ宣言に応呼しているのだろう。高邁な理想の陰で核兵器を巡めぐる現実は甘くないのは誰もが知っている。それでも「まだ世界は変えられる」という人間の理性を信じる姿勢は救いをもたらしていた。