こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

モンガに散る

otello2010-11-04

モンガに散る


ポイント ★★★★
監督 ニウ・チェンザー
出演 イーサン・ルアン/マーク・チャオ マー・ルーロン/リディアン・ヴォーン/クー・ジャーヤン
ナンバー 260
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


血の結束を誓った固い絆は永遠に続くはずだったのに、大人の世界に足を踏み入れた途端にそれは甘い感傷になってしまう。親兄弟以上の信頼関係にあるはずなのに、怨念と不信・甘言と嘘が仲間に銃口を向けさせる。映画はやりたい放題だった高校時代と、背負うべき責任が生じたプロになってしまった時間を対比させ、若き極道たちの短くも鮮烈な生きざまを追う。義理と人情、カネとしきたり、新旧の世代交代、そして生と死。あらゆるものの板挟みになりながら、自分が生き残るためには何かを捨てなければならない二者択一を迫られる苦悩がリアルに再現される。


いじめられっ子のモスキートはドラゴン率いる不良グループの参謀格・モンクに誘われる。メンバーの5人は義兄弟の契りを結び、台北の繁華街・モンガを縄張りに暴れ回る。やがて高校を中退した5人は本格的な極道になるために、ゲタ親分の配下で戦闘訓練を受ける。


バイクを暴走させ裏路地で殴り合いをするうちにモスキートは真の友人ができたと感じるようになる。商店街で大立ち回りを演じたりもするが、相手をぶちのめしても止めまでは刺さない暗黙のルールは、まるでお祭り騒ぎに浮かれているよう。若さの特権を使い切るかのようなエネルギーの爆発は見事な青春賛歌となっている。その一方、極道を仕事にすると、刃物を使ったケンカは殺し合いなりかねない。それは少年時代の終焉と人生という地獄の始まり。映画は前半と後半で見事な転調を見せ、モスキートやモンクの出口のない閉塞感を、じりじりと押しつぶされるような圧迫感で描く。


◆以下 結末に触れています◆


その後、大陸ヤクザの進出による駆け引きと罠、敵対する組との抗争などが入り混じり、憎悪と裏切りの果てに彼らは次々と落命していく。男気を覚えていた友の銃弾を浴び、尊敬していた友にナイフを突き立てる。「おまえに命を預けていたのに」という驚きと、「おまえになら殺されてもいい」という諦観、その凝縮された思いに胸が熱くなる。ただ友情だけを信じていれば何も怖くなかった高校時代を脳裏に浮かべるラストシーンが切なく美しかった。