こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

100歳の少年と12通の手紙

otello2010-11-10

100歳の少年と12通の手紙 OSCAR ET LA DAME ROSE


ポイント ★★★
監督 エリック=エマニュエル・シュミット
出演 ミシェル・ラロック/アミール/マックス・フォン・シドー/アミラ・カサール/ミレーヌ・ドモンジョ
ナンバー 268
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


いたずらをしても誰も叱ってくれない、回りの大人や子供たちからも特別視されている少年。それはみな彼の命が残り少ないと気づいているから。さらに医師や看護師、両親までが真実を隠し必要以上に気を使うことに苛立っている。いや、むしろ気を使わせている居心地の悪さ対して腹を立てている。映画は、そんな少年と、彼に無遠慮な言葉を投げつけるオバサンの交流を通じて、生きるとは何かを問いかける。暗く沈んだ病院内と窓から見えるどんよりと雲が垂れこめた空、雪に覆われた風景が世界のすべてである少年にとって、彼女だけは己をひとりの人間として見てくれる大人。女子プロレスの奇妙なホラ話が少年の豊かなイマジネーションを刺激する。


末期の白血病と診断されたオスカーは現実に目を背ける両親や病状を隠す医師たちに心を閉ざしている。ある日、ピザを配達に来たローズに悪態をつかれたのをきっかけに彼女を話相手に指名する。


いつも頭に浮かんだイメージそのままに下品な表現をするローズ。文字通り無菌培養されているオスカーは、彼女は自分を真正面から受け止めてくれると感じたのだろう。ズケズケとした物言いは、病気のせいで社会性を学ぶ機会がなかったオスカーには最適の「人生の教科書」なのだ。彼女が、胸襟を開いたオスカーに思いのたけを手紙につづらせ、風船にくくりつけて神様に届けるシーンがファンタジックで美しい。そして、便箋に正直な気持ちをぶつけるうちにオスカーは両親の愛を知り、また思いは言葉にしなければ伝わらないと学んでいく。


◆以下 結末に触れています◆


1日で10年分の時間を過ごすとローズに約束したオスカーは、恋を知り、大人になり、苦悩して、疲れ果て、やがて老いていく。その過程でローズもまた真剣に他人と向き合う大切さと、中年を過ぎてもまだ人間的に成熟できるのを知る。オスカーの葬儀が終わり春になると、映像はやっと太陽の明るさを取り戻す。それは意のままに操れなかった肉体から解放されたオスカーの魂が自由を満喫している証。オスカーの心は感謝にあふれていたに違いない。