こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エクスペリメント

otello2010-11-16

エクスペリメント The Experiment

ポイント ★★*
監督 ポール・シェアリング
出演 エイドリアン・ブロディ/フォレスト・ウィテカー/キャム・ギガンデット/クリフトン・コリンズ・Jr./マギー・グレイス
ナンバー 270
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


環境が人を変え、人は環境に順応していく。権力を持った男はそれを行使するためにより横暴になり、抑圧される側に置かれた者は最初に反発し、その後卑屈になっていく。そこにあるのは正義より秩序、理性よりエゴ、良心より支配欲。与えられた役割と権限がいかに残虐性を引き出すかを、映画はリアルに再現する。いわゆる“常識人”に見える男でも機会があれば己の権力欲を満たしてみたい、そんな人間の本性をあぶりだす映像は、心が寒くなるような緊張感に満ちている。


高給に引かれて集まった男たちは人里離れた刑務所施設で心理学実験の被験者となる。少数の看守役と多数派の囚人役に分かれた彼らは5つのルールを課せられるが、看守役の態度が徐々に高圧的になっていく。


娯楽時間の流血に始まり、食事のルールを巡るトラブルを経て早くも2日目には看守役と囚人役は反目状態になる。実験を真剣に成功させようとする看守役、それに対して「冗談だろ」とゲーム感覚が抜けない囚人役。やがて看守役の中で一番温厚だったバリスがリーダーになり、より効果的な囚人支配法を編み出していく。まるで人格が入れ替わるように自らスキンヘッドにしてその決意を囚人役に見せつける変貌ぶりが恐ろしい。一方で囚人役の中心・トラヴィスは暴力や諍いを好まない性格だったのが、いつしか自分たちの尊厳を守るために命がけで戦う勇士となる。残忍なサディストがバリスの本性ならば、正義感が強く好戦的なのはトラヴィスの本性。実験に入る前のインタビューとは正反対の、本人が気づいていなかった自身の本性をむき出しにしていく過程が興味深い。


◆以下 結末に触れています◆


結局、人はどこまで理性的に振る舞えるかをこの実験は試しているのだ。報酬のためと割り切っていても、一旦スイッチが入ると抑制が利かなくなる彼らの変化を追うことで「理性」などという幻想を打ち砕く。おそらくトラヴィスが看守役、バリスが囚人役になっても似た様な結果になったはず。普段から本心を抑えて生きている者ほど極端な行動に走りやすい、その恐ろしさをこの作品は見事に喝破していた。