こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

行きずりの街

otello2010-11-19

行きずりの街


ポイント ★★
監督 阪本順治
出演 仲村トオル/小西真奈美/南沢奈央/窪塚洋介/菅田俊/佐藤江梨子/谷村美月
ナンバー 263
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


男にとってその女は忘れられない過去、女にとってその男は忘れたはずの過去。追われるように東京を去った男が戻ってきた時、街は牙をむいて彼を迎える。そして女は傷ついた男をやむを得ず受け入れてしまう。暗く、冷たく、人を遠ざける雰囲気の中で、失踪した少女のわずかな手掛かりを求めてさまよう男は、忌わしい記憶に再びとらわれていく。映画は謎が謎を呼ぶミステリーにハードボイルドな要素を加え、陰謀と死に隠された生きる苦悩と愛の真実を浮き彫りにする。だが、肝心の人探しがいつの間にかメロドラマに転化してしまい、主人公の虚無感がほとんど描かれていなかった。


塾講師の波多野は、行方不明になった元教え子・ゆかりの消息を求め東京に出るが、ゆかりのマンションは荒らされ友人も居所を知らない。途方に暮れているところをかつて勤めていた女子高の理事長と鉢合わせし、用心棒に殴られる。傷だらけの波多野は別れた妻・雅子のバーに転がり込む。


波多野が調査を進めるうちに、ゆかりの中年恋人がトラブルに巻き込まれ、とばっちりを恐れたゆかりが姿を消していることが明らかになる。しかも、それは波多野がかつて教えていた学園で起きている。さらに雅子も関係していると知り、波多野は引くに引けなくなって真相を突き止めようとする。ところが、その過程で繰り広げられる人間模様は複雑怪奇な割には中途半端な掘り下げ方で、波多野がゆかりを追ううちに自らの人生をもまた顧みるという構成も煮え切らない。波多野を追跡する男を演じた窪塚洋介の方がよほど独特の存在感を示していた。


◆以下 結末に触れています◆


波多野と雅子はよりを戻すが、そこで初めて雅子のほうも波多野を強く愛していた事を明かす。年齢の離れた男との愛に命を賭けている雅子とゆかり、ふたりの女に共通するその気持ちだけは言葉にしてくれたおかげで納得できたが、波多野の心の闇はいっこうに晴れてこない。一応つじつまはあっているものの物語の流れも悪く、波多野の感情を理解するのに彼以上に頭を抱えてしまった。