こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

君を想って海をゆく

otello2010-11-20

君を想って海をゆく WELCOME


ポイント ★★★
監督 フィリップ・リオレ
出演 ヴァンサン・ランドン/フィラ・エヴェルディ
ナンバー 256
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


海峡の向こうで恋人が待っていると信じて少年は泳ぎはじめる。人生に行き詰っていた男は少年の力になることで、もう一度生きる勇気を得ようとする。映画は散々描かれてきた“師弟関係”にEUの抱えるリアルな移民問題を絡ませた上、一般市民と不法入国者の距離感を描き、仏・サルコジ政権に対する違和感を表明して現代性を持たせている。彼らは働く場所が欲しいだけで地元住民との接触は極力避けているのに、差別され不当な扱いを受けている。たった1回のシャワーを浴びるためにプールに殺到する難民たちの、「人間らしくありたい」という願いが切実だ。


恋人のいるロンドンを目指してイラクから歩いてきたビラルは密航に失敗、仏西岸のカレで足止めを食う。その後ドーバー海峡を泳いで渡ろうと思いついた彼は、水泳コーチ・シモンに泳ぎのレッスンを受ける。やがてシモンのなかでビラルに対する愛情が芽生えてくる。


離婚調停中の妻・マリオンに未練たっぷりのシモンは、難民援助のボランティアをする彼女の気を引きたかったのだろう、街を徘徊するビラルと仲間に声をかけ一夜の宿を提供する。そして、暇さえあればプールで泳ぐビラルの一途さと生命力に引き寄せられる。シモンは海水の冷たさ、潮流の速さなどを教え無謀な計画を思いとどまらせようとするが、ビラルは聴く耳を持たない。それでもビラルの面倒を見ているうちに、孤独でいるよりは誰かと一緒にいる方が生活に張り合いが出ると気づいていく。シモンを演じたヴァンサン・ランドンの人を寄せ付けない厳しい表情が徐々に感情を取り戻していく過程が、雪解けのような温かさをもたらす。


◆以下 結末に触れています◆


ビラルは黙って海に出るが失敗、シモンにできるのは身元引受人になるくらいしかない。警察にも目を付けられる。そんな状況でも、トラブルを未然に防ぐために不寛容になるよりは、多少の齟齬があっても寛容でいる方がいい、そう思わせる作品だった。