こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛する人

otello2010-11-25

愛する人 MOTHER AND CHILD


ポイント ★★★*
監督 ロドリゴ・ガルシア
出演 ナオミ・ワッツ/アネット・ベニング/ケリー・ワシントン/ジミー・スミッツ/サミュエル・L・ジャクソン
ナンバー 271
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


若さゆえに子供を失った母、親の思いを知らずに育ったゆえに他人に心の奥をみせない娘。娘を愛したい、母に愛されたい、でも安否すら分からない。ふたりとも相手がこの世のどこかに存在すると信じているのに、わだかまりの壁が行動をためらわせている。そして、母の子への気遣いも、娘の母に対する感謝も、言葉にしなければ伝わらないことを、彼女たちは「死」と「命」を通じて学んでいく。映画は生まれたばかりの赤ちゃんを養子に出した母と、成長したその娘の日常を通じて、親子の絆とは何かを問う。


14歳で出産したカレンは赤ちゃんを奪われたせいで気難しくなっている。有能な弁護士・エリザベスは少女のころから自立し独身主義を貫いている。カレンは老母の死、エリザベスは自身の予期せぬ妊娠を機に失われた親子の手がかりを手繰り寄せようとする。


カレンは老母を介護しているが、赤ちゃんを忘れられず老母を恨んでいる。それを察している老母はカレンではなく家政婦に愚痴をこぼしている。肉親だからこその愛憎が深く刻み込まれた彼女たちの部屋はよそよそしい空気が漂っている。かたやエリザベスも自分本位のセックスで孤独を紛らわしている。そんな、人を寄せ付けない性格が遺伝してしまったカレンとエリザベスの「現在」が哀しい。寡黙な映像と不機嫌な表情からは苦悩ばかりが強調され、冷たく張りつめたトーンの前半はうんざりと沈んだ気分になっていく。


◆以下 結末に触れています◆


だが、カレンは家政婦から、老母も赤ちゃんを養子に出したのを後悔していたと聞く。エリザベスも妊娠で子供を愛おしく思う感情が湧き、ふたりは足りなかったパーツを埋めるがごとくお互いを捜しあう。一方で、カレンは家政婦の娘に、エリザベスは盲目の少女に自ら語りかけ、まるで再会の日に備えるかのように新しい人間関係を構築する。“血のつながりより一緒に過ごした時間の長さが大切”と登場人物の一人は言うが、どれほど不在の時が長くても愛が残っている限り親子の縁は決して色あせないと肯定的な後半は柔和で温かい。養子制度の煩雑さが単純なハッピーエンドを拒むが、それでも優しい気持ちにさせてくれるラストシーンは人生の豊饒を感じさせてくれた。