こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

バスキアのすべて

otello2010-11-26

バスキアのすべて
JEAN-MICHEL BASQUIAT: THE RADIANT CHILD

ポイント ★★*
監督 タムラ・デイヴィス
出演 ジャン=ミシェル・バスキア/ファブ・5・フレディ/ジュリアン・シュナーベル/マリ・ポール/アニナ・ノセイ
ナンバー 275
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ストリートの落書きがアートに昇華され称賛を浴びていく。斬新でユニークな作風は時流をつかみ一躍時の人になるが、20歳の若者にはその急激な環境の変化に順応する精神的な準備ができていない。名声は彼自身が望んだもの、だが早すぎる成功で有頂天になるうちに、疑心暗鬼とプレシャーに押しつぶされ、ほどなくドラッグで身を滅ぼすお決まりのコースを歩む。映画は80年代NYの美術界に風穴を開けたアーティストの短い生涯をインタビューで振り返り、彼の足跡を追う。友人や恋人、ビジネスパートナーの証言に孤独な天才の苦悩が偲ばれる。


メッセージの末尾に“SAMO”というサインを残す落書きで有名になったバスキアはカウンターカルチャーの寵児となる。彼のアトリエには常に取り巻きが屯し、創作活動はライブショーのよう。そうのちに、パーティで酒と食事をたかる連中に嫌気がさしていく。


有名人の仲間入りを果たしたバスキア。もちろんマスコミに積極的に露出することでセルフプロデュースしているのだが、ウォーホールを引き合いに出すまでもなくスター並みの扱いだ。一方で新聞のゴシップ欄をにぎわし、失敗作は徹底的に批判される。挙句にNYで仕事がしにくくなってLAに活動の場所を移したのは、人も情報もマンハッタンのダウンタウンに集中するNYより、広いLAの方が性に合っていたからだろう。その上でハワイの自然に触れて魂を癒していく。このあたり、夢にまで見たセレブ生活を実現させたのに、多くのものを背負い込むだけの結果に終わった失望が証言によって綴られる。


◆以下 結末に触れています◆


やがて、スランプに陥り再びウォーホールの世話になるバスキア。しかし、ウォーホールとのコラボも不評に終わり更なる失意に見舞われる羽目になる。ドラッグに手を出した彼は精神状態も不安定になり、みるみるやつれ、そして突然の死。たくさんの友人やガールフレンドに囲まれていたのに、心を許せる相手に巡り合えなかったのが哀れを誘う。作品の数々は刺激的なだけに、早熟ゆえの破滅というあまりにもステレオタイプな人生を歩んだのは皮肉だった。